第18話 能力者の休日3
「私、能力のせいで体温高いから、他の人より暑がりなんだ。だからすぐ冷たい物が欲しくなっちゃうんだよね」
そういえば身体能力関係の能力者は一般人よりも代謝がよく、それに伴って体温も上がりやすいと聞いた事がある。稲葉さんもそうなのだろう。
「ほら、触ってみて。ちょっと熱いでしょ」
そう言って稲葉さんはTシャツの袖を捲ると、自分の腕を俺の手に触らせた。稲葉さんの温かな体温と、しっとりすべすべとした肌の感触に俺は少しドキッとする。
すると、俺の後ろでそのやり取りを見ていた霧子がポツリと呟いた。
「……汗の匂いがする」
「え?」
それを聞いた稲葉さんは一瞬硬直し、サッと俺から離れて自分の匂いを嗅ぎ始めた。
「え、あ、ゴメン! 私汗臭かったかな?」
「いや、別にそんな事ないよ! 霧子、変な事言うな!」
汗臭いどころか、稲葉さんからはほのかに甘い良い匂いさえ漂ってくる。俺が汗の匂いフェチというわけではない。稲葉さんからは本当にいい匂いがしているのだ。
しかし、霧子は辺りを見渡して更に言葉を続ける。
「お兄ちゃん、雨降るのかな? なんか夏の雨の日のアスファルト……みたいな……」
「霧子止めろ」
稲葉さんは顔を赤くして更に俺から遠ざかる。
「や、やっぱり私かな? ゴメンね! 女子失格だよね! うわぁ、恥ずかしいなぁ……」
「いやいや! 違うって! コイツが適当な事言ってるだけで、稲葉さんは全然臭くないよ! 全然臭くない!」
俺は間違った事は言っていないはずなのだが、なんだかフォローすればするほどドツボにハマっていくような気がする。
そして、あたふたする稲葉さんに霧子は更に追い討ちをかける。
「お兄ちゃん、この前テレビで言ってたんだけど、自分の匂いって臭くても案外気付かないらしいよ。自分では普通だと思っていても、ドブみたいな匂いがする人もいるんだって。気をつけようね」
「おい、いい加減にしろ」
「ド、ドブ……」
稲葉さんは既に俺から十メートル近く離れてしまっている。霧子の精神攻撃が効いているのか、目は涙目になり、足は僅かに震えていた。
霧子はトドメとばかりに、鼻をヒクヒクさせて辺りを見渡しながら、眉をひそめて小声で囁く。
「わぁ……スゴい……ここまで……鉛筆?……ううん、ニラかな……」
「お前、それ以上言ったらマジで怒るからな」
「わかった……あ、お兄ちゃん、あそこでクサ野球してるよ。フィンランドのクーサモに旅行に行きたいね。道路工事のクッサク機械ってさぁ」
「霧子、帰るか?」
俺がそう言うと、霧子はややむくれてようやく口を閉じた。このように霧子は俺に近付く女の子に対しては本当に容赦なく攻撃を仕掛けるイカれたイージス艦のような妹だ。
それから俺は稲葉さんに平謝りし、稲葉さんの体臭に異常がない事を誠心誠意説明する事となった。
そして、なんやかんやで稲葉さんは俺達と一緒に買い物に行く事となった。商店街のドラッグストアで制汗スプレーを買いたいと言ったので、どうせなら一緒に行こうという事になったのだ。
むくれる霧子に俺は先人達の教えを授ける。
「口は災いのもと」
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