第17話 能力者の休日2

 俺達兄妹の住んでいる六面町は、盤上河という一級河川の河口近くにある海沿いの大きな町である。町をちょうど真ん中で分断するように鉄道が走っており、線路を挟んで海側が住宅街や港、反対側には学校や商店街等が集まっている。


 俺と霧子は川沿いの土手を歩きながら、学校の近くにある商店街を目指してノコノコと歩く。

 霧子の能力を使えば商店街どころか沖縄や北海道でも一瞬で行けるのだが、前にも言った通り俺は霧子の能力を便利に利用したくなかったし、今日は天気が良い事もあってどうやら霧子も歩きたいようだ。


 買い物に行きたいと誘ったのは霧子であるが、霧子は俺の一歩後ろをチョコチョコとついてきて、決して自ら前に出ようとはしない。霧子のこういうところは昔から変わらない。頭抜けた能力を持っていても案外引っ込み思案なのだ。


 しかしながら、霧子がいつから俺に懐くようになったのかはイマイチ思い出せない。最初から仲が良かった気もするし、徐々に仲良くなったような気もするが……まぁ、あまり気にするような事でもない。


 しばらく歩くと、河を跨ぐ高架の向こうに商店街が見えてきた。俺達は土手を降りて大きな通りへと出る。それから更に歩き、俺は道路沿いのコンビニのに見知った顔を見つけた。


「おーい!」

 コンビニの屋根の縁に腰掛けて、棒アイスを片手にこちらに手を振っているのは、先日俺の鼻を踏み潰したあの稲葉小春いなばこはるさんである。私服の稲葉さんはスリムなジーンズにタイトな長袖のTシャツとスニーカーというシンプルな格好をしており、手足が長く引き締まったスタイルによく似合っている。

 俺が稲葉さんに手を振り返すと、稲葉さんは残ったアイスを頬張り、コンビニの屋根から電信柱よりも高く跳躍してかっこよく宙返りをする。常人ではあり得ない跳躍力、それが稲葉さんの能力で、確か『因幡イナバ跳兎ホッパー』と言っていたはずだ。


 そして稲葉さんは俺のすぐ目の前に着地するかと思われたが、突如着地点に開かれた異次元空間の落とし穴へと音もなく消えた。


「おい霧子」

「……ユーモア」


 数分後、霧子に連れられて稲葉さんは異次元空間から帰ってきた。どうやら今回は厳島神社へと飛ばされていたらしい。


「いやー、びっくりした。着地したら海の上にある鳥居の上にいるんだもん。霧子ちゃん、無闇に能力でイタズラしたらダメだよ」

「稲葉さんのおっしゃる通りです。もっと言ってやってください」

 霧子は「早く行こう」と言わんばかりに俺の袖をぐいぐいと引きながら、警戒心の強い猫のように稲葉さんを見つめている。その顔は無表情ではあるが、じんわりと不機嫌オーラを放っていた。霧子からすればせっかくの二人のお出掛けを邪魔されたという感覚なのだろう。


「兄妹でお出掛け?」

「うん、商店街まで。稲葉さんは何してたの?」

「私? 私は普通に散歩してたら、なんか暑くなってきたからアイス食べてたの」

 確かに今日はこの春一番の暖かさだ。アイスが食べたくなるのもわかる。稲葉さんのように能力で高い所へ登って景色を眺めながら食べるアイスはさぞかし美味いだろう。まぁ、霧子に言えば東京タワーの上でアイスを食べる事も可能だが、俺は高所恐怖症だから頼む事はまずないが。

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