第15話 その日の帰り道
先輩にクタクタにされた霧子を自転車の後ろに乗せ、俺はすっかり暗くなった川沿いの土手を家に向かってのんびりと走っていた。
霧子は先輩にしてやられたのが余程悔しかったのか、口数少なくずっと俺の背中にしがみついている。
しかし今日は色々とあって本当に疲れた。
朝は稲葉さんと出会い、昼は桜庭と出会い、そして放課後は先輩と出会った。三人が三人ともみんな素敵な女の子であり、もしかしたら何か起こるかもしれないと思えた出会いだったけど、どれも霧子のせいでめちゃくちゃにされてしまった。
全くこいつはどういうつもりなのだろうか。俺が一生彼女できなかったらどう責任を取るつもりであろう。いや、霧子ならきっと「私がお兄ちゃんのお嫁さんになる」だなんて幼稚園児みたいな事言い出すかもしれない。
俺は何気なく霧子に聞いた。
「なぁ霧子、お前、俺なんかのどこがいいんだ?」
「うん? 全部……かなぁ」
「そういうんじゃなくてさ、何かきっかけとか理由があるんじゃないのか? 自分で言うのもなんだけど、俺は別にいい男なんかじゃないぞ」
そう。そうなのだ。
俺は別にイケメンではないし、勉強もスポーツもそこそこ。特技はチャーハンを作るのと風呂場のカビ取りが上手いくらいだ。それに大きな野心があるわけでもないし、特別優しいわけでもない。霧子に——女の子に好かれる理由なんて特に無いのだ。
「お前みたいに凄い能力も持ってないしな」
俺が自虐的にそう言うと、霧子は俺の背中をギュッと強く握り締めて言った。
「そんな事ないよ。お兄ちゃんは凄い能力を持ってるよ」
「なんだそれ? 適当な事言うなよ」
「やっぱり覚えてないんだ。お兄ちゃんの能力は————」
不意に、腰にしがみつく霧子の力が抜けた。
俺が自転車を止めて振り返ると、霧子は荷台の上で気持ち良さそうな顔をして眠っている。
どうやら今日は能力の使い過ぎでガス欠らしい。霧子は能力を使い過ぎると、疲労で急に寝てしまう事があるのだ。他の女の子に嫉妬してバカスカ能力を使うからだ。全く、仕方のない妹である。
まぁでも、こんなになるまで能力を使うほど俺の事を想ってくれているって事なのだろう。兄としては複雑な気持ちである事に変わりはないが、取り敢えず今日は特別にチャーハンオムライスでも作ってやる事にするか。
異次元空間を操る能力者の妹の温もりを背中に感じながら、俺は————阿佐ヶ谷本介は家路を急ぐのであった。
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