第12話 図書室の眠り姫と異次元の魔女2
先輩のその一言に、俺の心拍数は一気に跳ね上がった。なぜなら……なぜなら俺はさっきから先輩の胸が非常に気になっていたからだ。
机に突っ伏している時は気付かなかったが、ピンク色のカーディガンに包まれた先輩の胸は非常に豊かであった。大きく、しかし下品ではなく、和菓子のようにふっくらとした柔らかな丸みのある胸だ。逆に下品なのは俺の脳味噌である。いや、それもこれも昼休みにおっぱいについて深く考えさせられたせいだ。あの一件のせいで、今俺のおっぱいセンサーは過敏に反応してしまうのだ。つまりは霧子のせいである。
「こ、興奮なんてしていませんよ」
「……ふぅん」
すると先輩は俺の胸に人差し指を押し当てた。
「うーん……早い、早いなぁ。そして強い。先輩に対して嘘はいけないぞ」
先輩は俺の胸元に押し当てた人差し指を、今度は八の字を描くように這わせる。
「興奮、羞恥、戸惑い、焦り、それから期待と不安が少々……君はわかりやすくていい音色を奏でるね」
「あのー、もしかして『能力』ですか?」
「ほぼ確信していて聞いたね。答えはマル」
そう言って先輩は俺の胸元に大きく丸を描き、指を離した。
俺はなんとなくではあるが、さっきまで先輩の出す声が『能力』なのではないかと思っていたが、どうやら逆だったようだ。能力の詳細まではわからないが、俺は『聞かされていた』のではなく『聞かれていた』のだ。
「『超能力』ならぬ『聴能力』なんてね。同音異議、分かる?」
「スーパーマンの『超』と、視聴覚室の『聴』ですよね」
「そうそう、心音だけじゃなくて頭の回転も早いね」
さっきから冷静になろうと努めてはいるけれど、先輩に胸元を撫でられたせいで中々鼓動が抑えられない。そしてこの先輩が何をしたいのかもよくわからない。ただ俺をからかって遊んでいるのだろうか。
「疑心……かな?」
先輩の言葉に、また俺の心臓が小さく跳ねた。
なんだこの能力は。聴力で俺の心音を聴いているだけにしては察しが良すぎる。まるで心を読まれているみたいだ。
「ふぅん。興奮よりも好奇心が強くなってきたね。私の能力がなんなのか真剣に考え始めたのかな? それとも興奮を伴う好奇心なのかな?」
真剣に、という程ではないけれど、今は先輩の胸の事よりも能力について気になるのは確かだ。すると、先輩は突然こんな事を言い出した。
「じゃあ、ここでちょっとゲームをしよっか」
「ゲーム……ですか?」
「君が私の能力を当てられたら、君がさっき興奮していたものを私が当ててあげる」
「え!? いや、先輩の能力は気になりますけど、俺は自分の事はわかっている訳ですし、そのゲームってクリアしても何のメリットもなくないですか?」
すると先輩はクスリと笑った。
「『当てる』と『当てる』。今度はどちらも同じ漢字だけど、やっぱり同音異議。わかる?」
そう言って先輩はツンと自らの胸をつついた。
ギューン
俺は脳のニューロンが急激に活性化するのを感じた。
『当てる』と『当てる』の同音異議。
それ即ち『問題の答えを正解させる』、と『物理的に押し付ける』という意味の違いであろう。いや、他にあるまい。
先輩は俺が何に興奮しているのかを、能力によってとうに気付いていたのだ。つまり先輩の能力を言い当てれば、あの大きくて柔らかそうな胸を俺に物理的に押し当ててくれるという事だろう。どこに当てて貰おうか。背中だろうか、腕だろうか、いや、手の甲でもいいな。
だがちょっと待てよ、世の中そんなにうまい話があるだろうか。何かの引っ掛けではないだろうか。だが、先輩の挑発的な態度から察するに恐らくこのゲームはガチであり、先輩は自分の能力を当てられない事によほど自信があるのだろう。いや、先輩には一切のメリットが無いにも関らず自分からこんなゲームを申し出る時点でむしろ俺に胸を当てたい説まである。
俺としては先輩の胸を気にしていた事がバレてしまったのは恥ずかしいが、バレてしまっては仕方がない。で、あればだ、俺は恥を捨てて全力でこのゲームに挑むしかあるまい。外れてもデメリットなし、当たれば気分はハワイ旅行の幸せゲームだ。頼む神様、俺を今だけ天才にしてくれ。
「いいでしょう。そのゲーム、受けて立ちます」
「おー、自信ありそうだね。じゃあ、制限時間は六時のチャイムが鳴るまでね。シンキングタイム、スタート」
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