俺と妹の新たな出会いについて

第4話 兎少女と穴熊妹1

 興奮する霧子をなだめすかした俺は、いつものように霧子お手製の弁当を受け取り、自転車で学校へと向かう。朝っぱらから霧子と戯れていたせいで、家を出るのが遅刻ギリギリの時間になってしまった。


 爽やかな春風が、すっかり桜の散った通学路を自転車で駆ける俺の頬を撫でてゆく。遅刻しそうでなければなんだか素敵な出会いでもありそうな良い朝だ。


 そうそう、家に置き去りにしてきた霧子はというと、朝食に使った食器を洗ってから能力で学校へと向かうと言っていた。全く便利な能力である。


 一応うちの学校では——というか大体どこの学校でも能力を使っての通学は禁止されているが、霧子は優等生っぽくありながらも案外ルールを破るのを躊躇ためらわない性格で、遅刻しそうな時は能力で人があまり来ないトイレや屋上にピョンってなもんである。それなら俺も一緒に連れて行って貰えばいいのではと思われるかもしれないが、俺はなんとなく霧子の能力をそういう風に便利に利用したくはないのだ。まぁ、醤油を取ってもらう程度の事はして貰う事もあるが。


 家から自転車で二十分程走ると、俺と霧子が通う学校——『龍鳳高校』の校舎が見えてきた。厨二っぽくてゴツい名前の学校ではあるが、どこにでもある公立の普通科高校である。特徴と言えば他所の学校よりも生徒数が多い事と、生徒と教師の能力者比率がやや高く、社会的に活躍できる能力者の育成に多少力を入れている事くらいだろうか。


 因みに霧子はこの学園の能力者特待生である。

 霧子には小学生の頃から日本全国どころかアメリカやドイツからも「うちの学校にぜひ!」という呼び掛けがあったにも関わらず、霧子は家から近くて俺が通っているという理由で龍鳳高校への進学を決めた。

 俺としては兄である俺の存在が妹の才能や将来を潰しているのではないかと思わないでもないが、進路に関しては霧子自身が決める事なので、あまり気にしない事にしている。まぁ、霧子の能力があればどんな進路に進もうと将来食いっぱぐれる事はまずないだろう。


 学校まであと僅かな距離に迫っているが、校舎の上にある時計塔を見ると予鈴まではあと数分しか時間がない。

 俺がスパートをかけるために立ち漕ぎスタイルで思いっきりペダルを踏み込もうとしたその時だ。


「あっぶなぁぁぁぁあい!!!!!!」


 突如斜め上方から声が降って来て、俺は急ブレーキをかけてそちらを見る。するとそこには、民家の屋根の上から幅跳びの姿勢で俺に向かって落下してくる女の子の姿があった。

 彼女は龍鳳高校の制服を着ており、はためくスカートの中身がガッツリ過ぎるほど見えているのだが、残念ながらスパッツらしきものを履いている。

 いや、今はそれどころではない。彼女の落下スピードは結構なものだ。もしぶつかればタダでは済まないだろう。俺は彼女を避けるために再びペダルを踏み込もうとする——が。


 ズルッ


 焦りのせいか俺はペダルを踏み外してしまった。

 やらかした俺は慌てふためきながら、再び彼女の方を見る。すると俺の眼前には彼女の靴の裏がドアップに迫ってきており、俺は恐怖を紛らわせるためにその先にあるスパッツへと目の焦点を合わせた。


 ボギュ


 次の瞬間、俺の顔面に彼女の靴の裏がめり込んだ。

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