第3話 俺と妹の関係性について3
「……え? 私がお兄ちゃんを起こしちゃダメ……なの?」
穴熊、もとい穴霧子の顔に悲しげな表情が浮かぶ。
「いや、違う違う! ダメじゃない! むしろ本当にありがたいんだけど、もうちょっと普通に起こして欲しいというか……」
「私、普通じゃない? 変?」
霧子は異次元空間の中から潤んだ瞳で上目遣いに俺を見る。俺はこの目に弱い。いや、義理とはいえ妹に萌えを感じるとかそういうのでは断じて無いのだが、単純に一人の男として女の涙が苦手なのだ。
「変じゃない変じゃない! 全然変じゃない! お前は俺にはもったいないくらいの妹だ! 妹オブ・ザ・イヤー受賞だ! 」
「妹……オブ・ザ ・イヤー?」
霧子のウルウルが止まった。よし、この調子だ。霧子は多少アレな所はあるが、褒めると素直に喜んでくれる良い妹だ。おだてて機嫌が良くなった所で根気よく話せばきっと俺の言う事を聞いてくれるはずだ。
「そうだ、可愛くて思いやりがあって家事も完璧! お前は世界一の妹だ! だから俺の話を……」
ここで霧子に異変が起きた。
霧子は一瞬フリーズしたかと思うと、アカデミー賞を受賞した女優のように、手で口元を覆ってプルプルと震え始めたのだ。
「はぁぁぁぁぁあ、凄い……凄いよぉ……オニイチャンに褒められちゃったぁ……もうケッコンしかないよぉ……」
俺、ミステイク・オブ・ザ ・イヤー受賞。
俺が
「待て! 頼むから泣くな! あのな、俺が言いたいのは……」
「夢なら覚めないで……私、このまま死んでもいい……」
「ダメだ! 泣くな! 死ぬな! 俺の話を聞け!」
「私……もうオニイチャンの声しか聞こえないヨ……」
聞いてないじゃないか。
どうやら声が聞こえるのと言葉を認識できるというのは別のようだ。
そう、俺が先程言った困った事とはまさにこれだ。兄である俺が言うのもなんだが、霧子は異常な程のブラコンなのだ。
いつから霧子がブラコンになったのかは覚えていないが、とにかく霧子がおかしいのは今朝だけではない。普段から多少ベタベタしてくるくらいはご愛敬だが、霧子は能力を駆使して風呂に背中を流しにくるし、学校でも時折俺を監視しているし、俺が寝ている時に寝顔を覗きに来たりもする。以前夜中にトイレに行きたくなった時、俺の寝顔を眺めながら寝落ちしたらしい霧子の首が宙に浮いているのを見た時は死ぬ程絶叫した。その次の日の朝に二軒隣の家のおばさんから「昨日何かあったの?」と言われるくらい絶叫した。
そんな具合に、霧子は能力を使って実の兄である俺をストーキングしてくるのだ。
それからこんな事もあった。
俺には中学生の頃に特別仲の良かった女子がいたのだが、クリスマスが迫ったある日、俺はその子にクリスマスイブに二人で遊びに行こうと誘われた。俺はドキドキしながらOKしたのだが、約束の当日にその子は待ち合わせ場所に現れず、なぜか翌日に
俺の何がそんなに霧子を惹きつけるのかは、霧子に聞いてもただテレテレするだけなので、ちゃんと問いただせた事はない。
俺としては霧子に好かれる事は嫌ではないし、むしろ喜ばしい事ではあるのだが、それはあくまで兄として尊敬や親愛の意味で好かれるならばだ。義理とはいえ俺は兄貴で霧子は妹なのだから、ジュッテームされても応える事はできないし、霧子がこの調子では俺は恋人どころか女友達すらまともに作る事もできない。恋愛したい盛りの高校二年生の俺にとって、この現状はあまりにも辛い。
いや、このままでは俺だけではなく、霧子だってまともな恋愛などできやしない。俺は兄として、霧子には女子高生らしく普通で爽やかな青春を送って欲しいのだ。
「あー、もういい! 遅れるからさっさと学校行くぞ!」
「オニイチャン……私オニイチャンにどこまでもついて行くヨ」
「どこまでもじゃなくて学校までだ!」
ここだけの話、俺には大きな目標がある。
それは、異次元を操る異常な
前置きが長くなってしまったが、ここではっきりと言っておく。これは普通の恋愛がしたい俺と、それを全力で邪魔する能力者の妹の物語だ。
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