翌日の夕方、僕はこの町を出ようと、車を走らせていた。トランクに詰め込んだ死体の匂いがきつくなっていく中、視界の端に、小さな男の子が映った。


 一瞬、その子がレイに見えた。


 実際、あまり顔は似ていないのだが、その子の醸し出す雰囲気が、レイに似ていたのだ。

 僕は、思わず車から降りて、その男の子に声をかけた。

「どうしたの、坊や」

 男の子は目に涙を浮かべていた。

「おうちにね、だれもいないの」

 保育園の黄色いカバンをぎゅっと握りしめて、必死に泣くまいとする男の子の表情に、僕の心はしめつけられた。

が、一緒にいてあげようか」

 そう言うと、男の子の顔に光が差し込んだ。

「うん!ぜったい、ボクをひとりにしないでね」

 男の子を抱きしめて、私(・)は耳元で囁いた。

「もちろん。私のことも、独りにしないでね」


 この子を、私のレイにしよう。


 今、この腕で私だけを必要としてくれるこの子を、レイに育てればいい。酸素の薄い空間が好きで、この世界に絶望していた、あの頃のレイに。


 そうすれば、私だけのレイを手に入れられる。


 レイは、漸く、私のものになる。

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