あれだけ五月蠅かった夕日は、もう既に衰えていた。

 アルバスからの手紙を、封筒へ入れる。

 ボクは慣れた様子で、駅のホームへ降りていく。

 無断で病院を飛び出したから、もしかしたらすぐにいないことがバレてしまうかもしれない。

 その前に、行かなければならない。

 ボクたちの洞窟へ。



 電車に揺られてしばらくすると、見慣れた風景がやってきた。電車を降りて、改札を通る。少しだけ慣れた、この動作。

 ボクは、もうあの頃のボクじゃない。

 太陽や暗闇に怯えてばっかりで、愛してくれる人を突き退けた、リースじゃない。

 ボクは、アルバスに会って、新しい自分になれた。

 アルバスは、ボクにとって一番大切な人。大切で、独りにはしてやれない人。ずっと傍にいてあげたい人。

 十四年前、保育園の前で会ったあの頃の約束を、今果たすのだ。



 空には、煌びやかな無数の星が広がっている。

 星の洞窟の土ボタルたちを、一つ一つ並べたみたいに。

 その淡い光は、決して人を見下さない。見せつけて、わざわざ馬鹿にしに来るようなことも無い。

 ただそこに存在して、じっとボク等を見守っている。

 何をするでもなく、ボク等の帰る道だけを示して、星は煌めく。

 目の前で光るあの星も、ボクを導こうとしている。

「もう、君を独りにはしない」

 そう言って、ボクはその星の方へ、足を一歩動かした。

 降下しながら、視界は、ただ一つの点だけを捉えている。

 ボクは飛び込んだ。


 満天の星が浮かぶ、暗黒の海の中へ。


 後方に広がる、星の煌めきと共に。

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