3
電話の主は、レイだった。
「大丈夫か?お前、学校で元気なかったみたいだけど、何かあったのか?」
普段は鈍感なくせに、こういうときだけは、僕の心を読んでくれる。レイは、いつも僕を想っていてくれる。
「さっき、父親を殺したよ」
「……」
「レイのおかげだよ、ありがとう」
レイは閉口する。
「ずっと父親に虐待されていたんだ。そのせいで母も出ていったし、こうすることしか考えられなかった」
遠くで、カラスの鳴き声がした。
「だから、父を殺した」
階下で、アパートの住民が父を見つけた。
「……後悔は、していないんだよな」
漸く、レイが開口する。
「もちろん。あいつを葬ることができて、よかったって思ってる」
カラスが、何かを叫んでいる。
「そうか。お前がそう思っているのなら、俺は何も言わないよ」
そして、カラスは飛び去った。
「うん。ありがとう、レイ」
カラスの代わりに、救急車の音が近づいてくる。
「俺は、空気が薄い場所が好きなんだ」
「え、急にどうしたの」
ピーポーピーポーピーポーピーポー。
「お前の秘密とは重みが違うかもしれないけど、これが、俺の秘密。秘密を打ち明けあったから、俺たちは今から親友だ」
電話の向こうで、きっとレイは笑っているだろう。僕の好きな、明るい、太陽の日差しの様な笑顔で。
救急車は、警察を後ろに従えて、アパートの敷地に入ってきた。父の死体はカメラで撮られ、同じような格好の人が、次々に父を囲み始めた。
「秘密を打ち明けあう前から、親友だろう?」
明るい声でそう返して、僕はレイとの通話を切った。
「あなたが、ここで殺されたジェイさんの子供ですね」
「はい。ジェイの子供です」
「では、重要参考人として、署までご同行願います」
「はい」
そして僕は、警察官に連れていかれた。
警察署まで連れていかれた僕は、虐待をしていた父が全て一人で死んだと供述し、何も疑われぬまま、家に帰ることができた。誰もいない、冷たい家に。
僕は、虐待されたという事実を隠したまま中学を卒業し、レイと同じ高校に入学した。そして、レイに誘われて、「洞探」を作った。メンバーは、レイ、アルバス、ファルコ、カイト、ヘレンの五人。
僕たちは、それぞれ問題を抱えた人たちだった。皆、レイと出会い、レイに変えられた人たちだった。レイという太陽の光に、集められた蝶だった。
皆と一緒に洞窟を探検して、様々な洞窟に行った。お互いを湛え、高めあって、そうして絆を深めていった。
僕は、その中でも特にレイと仲が良くて、お互いに思いあっているんだと思っていた。例え、高校生のうちに結ばれなくても、何れの時にか結ばれるものだと信じていた。
でも、そんなものは、ただの幻想に過ぎなかった。
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