7
あの事件から、約一週間が過ぎていた。
あの後、尾行していたエミーユによって、瀕死の所を助けられたボクは、この病院に運ばれたようだ。
コンコン。
軽快なノック音の後に、見知らぬ男が入ってきた。
「こんにちは、ご機嫌いかがかな、リース君。ぼくは、君の先輩にあたる者だ。カイト、と言えばわかるかな」
「こんにちは、レイとアルバスの友達、ですよね」
カイトは微笑を浮かべた。
「そうだ。ぼくはあまり現場には行かないのだが、今日は、君に用があってね」
そう言うと、カイトは懐から封筒を取り出した。
「これは、アルバスが君に宛てた手紙だ。読むかい?」
「どうして、これを?」
カイトは、ベッドの脇にあった椅子に腰を下ろした。
「星の洞窟で君たちを発見した後、君は病院へ運ばれたが、アルバスは、警察に逮捕されて、刑務所の方へ連れて行かれたんだ。そして、治療を終えて独房に入れられた翌日に、自ら命を絶った。囚人服で、自分の首を絞めてね」
「……死んだ」
「死体の傍らに、この手紙が置いてあった。宛先に君の名前があったから、渡しに来たんだ」
「……そうですか。後で、読もうと思います」
「ぼくは、洞探が好きだったよ。真面目にやっているのはぼくとレイくらいだったけれど、皆、仲が良かったから。でも、ぼくは、大切な仲間が抱いていた愛と憎しみを、感じることはできなかった。あの時、ぼくが少しでも皆に気を遣っていれば、きっと、こんなことにはならなかった。申し訳なく思っているよ」
「いいえ、そんな。こんな目に遭ってしまいましたけど、でも、アルバスと出会えたことは、ボクにとって幸せでした」
カイトは、ボクの手を握った。
「ぼくたちが気づかなかったアルバスの闇を、受け止めてくれて、愛してくれて、ありがとう」
ボクも、力いっぱい握り返した。
「一つ、お願いを聞いてもらってもいいですか」
「ぼくにできることなら」
「姉に、エミーユに、ありがとうって伝えてください」
カイトは涙ぐみながらも、ボクに微笑む。
「もちろん、約束は果たすよ。では、ぼくはこれで」
「さようなら、カイトさん」
そうして、カイトは病室から出ていった。
「リース!」
代わりに入ってきた女を、ボクはじっと見つめる。
「あなたが無事で、本当によかった。今、話せるの?体は大丈夫なの?何か、食べたいものとかある?」
相も変わらず、捲し立てるように話している。
「母さん」
「……ひょえ?」
「母さん、ボクを愛してくれてありがとう」
久しぶりに母さんと呼んだせいか、母親は固まってしまっている。
「……リース、私を、許してくれるの」
母親の目からは、止めどなく涙が零れている。
「うん。代わりに、条件がある」
「ありがとう。条件って?車とか、お金とか?」
「ボクに向けている愛を、半分でもいいから、姉さんに向けてほしい。姉さんは、ボクの命を救ってくれたし、母さんの面倒も見てくれた。だから、姉さんのことをもっと愛して欲しい」
母親は、ボクの頬に触れる。
「もちろんよ。あなたに許される機会をくれたのは、他でもない、エミーユだものね」
ボクはその手に、そっと触れる。
「うん。さ、ボクはもう寝るから、早く出て行って。また明日、来てよ」
「わかった。またね、リース」
「さようなら、母さん」
誰もいなくなった病室に、オレンジ色の夕日が差し込んでいた。相変わらず、ボクのことは無視しているけれど、もう、ボクは気にしない。
ボクには皆がいるから。星の輝き、母、エミーユ、カイト、そして、アルバス。
彼らがいれば、もう大丈夫。
ボクは、アルバスからの手紙を開いた。
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