5
「――――――――――――――――」
彼女の話が終わる。車は、どこかの船着き場で止まった。
空は、もう暗くなっている。太陽は沈み、月が煌々と照り光る。月明かりに照らされる彼女の顔が、妖艶に映し出された。
「着いたわ」
彼女が呟いた。黒い海の音に掻き消されてしまいそうな、小さな声で。
「星の、洞窟だね」
彼女は、車のドアを開ける。海から吹く潮風が、彼女の髪の毛を靡かせる。
「正解」
彼女に促されるまま、ボクは港に降り立った。
「どうして、ここに?」
彼女は、港を歩き始めた。ボクもそれに、付いて行く。
「ここは、私たちの洞窟だから」
彼女は、星の洞窟行の船に乗った。ボクも、それに続く。
「“私たちの”って、どういうこと?」
彼女は答えない。
二人の間を、沈黙が走る。
「ここには、レイの過去と、私の感情が詰まっているの」
「レイの過去……」
生ぬるい風が、夜の海上を通り過ぎた。
「レイは、実の兄を殺した。ここの、エアドームで」
殺した。兄を。エアドームで。
「リースなら知ってるでしょう」
洞探の部室で見つけた、埃の被った紙束。
かつての部長レイが書きあげた、冒険譚。
その中で綴られた、兄弟の攻防。
「そうだね」
風が徐々に冷気を伴い始めると、星の洞窟が姿を現した。
「さあ、着いた。準備はいい?」
「うん」
彼女は先に海に入り、ボクも次いで海に入った。車の中で着たマリンスーツに触れる。夜の海がこんなにも冷たいということを、ボクは今日初めて知った。
彼女は、どんどん泳いでいった。迷うことも、周囲の景色に感動することもなく、淡々と前を進む。ボクは、周りの景色に見入っていた。
水面を見上げると、そこには無数の星が広がっている。蒼白く小さな光が、ボク等の上を覆っている。太陽のような、ギラギラとした強い光ではない。けれども、その数センチしか無い小さな光は、僕を煌々と照らしてる。
綺麗。
レイの冒険譚を読んで、星の洞窟の様子を想像はしていたものの、やはり実際の景色に勝る物はないのだ。この洞窟は、見る者を癒す作用でもあるのだろうか。
兄を殺し、親に見捨てられ、自分の生きている意味を見出せなかったレイ。そんな彼を慕い続けたアルバスは、レイと一緒に星の洞窟に赴いた。天から落ちてきた土ボタルを拾い上げて、死へ向かおうとしたレイを、アルバスは引き留める……。
……アルバス。
アルバス。
そうだ、アルバスだ。
アルバスが、鍵だったんだ。
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