4章 星の洞窟

 アルバスに自分の罪を告白してから、約一週間が過ぎようとしていた。その間、アルバスとは何もなかったかのように過ごし、他のメンバーともいつものように接していた。

 何も変わらない、いつもの部活。

 木製の古い部室の扉を開ければ、そこには皆が俺を待っている。

 もう、兄はいない。

 でも、まだ皆がいる。

 俺は、一人ではないんだ。

 そう気付かせてくれたアルバスには、感謝してもしきれない。そんな彼だからこそ、俺は、本心を明かそうと思う。ここまで親身になってくれた相手を欺き続けるのは、もう嫌なのだ。


 放課後、帰宅しようとしていたアルバスを引き留め、俺は部室に連れて行った。道中、アルバスは特に焦ることも嫌そうな顔を見せることもなく、黙って俺についてきた。

「俺は、アルバスに言わなければならないことがある」

 部室の簡素な椅子に座って、アルバスはお茶を飲み始めた。

「何?」

 大丈夫、アルバスならきっと、俺の全てを受け入れてくれる。

「俺は、」

 そう思っていても、実際に声に出すのは難しい。アルバスは薄ら笑いを浮かべて、「何?」ともう一度呟いた。

「俺は、」

 部室には、アルバスがお茶を飲み込むゴクンという音だけが満ちていた。そのくらい、静かだった。

「俺は、ヘレンのことが好きなんだ」

 部室から、全ての音が消える。

「え、それって、本当に?」

 声の主は、ヘレンだった。

「いつからそこに!?」

「さっき、レイが私のことを好きって言った時、だけど。聞いちゃダメな奴だったかな、うん、そうだ。じゃあ私、もう帰るね。お疲れ!」

 早口に言うと、ヘレンは早々に去っていった。

「待てよ、ヘレン!」

 そう言った時点で、アルバスのことを思い出した。今、部室を出れば、ヘレンに追いつき、真っ向から告白ができる。

でも、それをしたら、俺を好きだと告白してくれたアルバスを無視し放置することになる。アルバスは、俺にとって家族以上に大切な存在だ。だから、置いていくことなど到底できない。

 俺は、どうしたらいいのだろう。

「行かなくていいの?」

 アルバスが漸く、口を開いた。

「でも、……」

「行けよ、早く」

「でも、アルバスに」

「僕に、何?」

「アルバスに、何だか申し訳ない」

 アルバスは、声を上げて笑った。

「どうして、申し訳ないんだよ」

「だって、アルバスは俺のことが好きなんだろ?そうだというのに、俺は未だ……」

「あれ、嘘だよ」

 顔に笑みを浮かべたまま、アルバスは俺の目を見つめた。

「え、嘘?」

「そう、嘘。好きなことには変わりないけど、そんな変な意味はないし、勘違いしなくていい。だから、早くヘレンの所に行けよ、レイ」

 アルバスはまた、お茶を飲み始めた。その様子を見て、それが真意であることを悟った俺に、急に安堵の波が押し寄せてきた。

「なんだ、嘘だったのか」

 アルバスの自分への好意を嘘だと知って、少し残念に思う俺がいた。

「嘘だったんだよ」

 俺とアルバスは、笑いあった。

「なら、俺は行くわ。わざわざ呼び出したのに、ごめんな。また今度、一緒に帰ろう」

「いいよ。頑張れよ!」

 アルバスに背中を押された俺は、ヘレンの後を追いかけた。


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