3章 水の洞窟
1
ボクには、ここまで慕ってくれる人がいるだろうか。
ここまで、親身になってくれる人がいるだろうか。
ボクと同じ高校に通っていた、ずっと前の洞探の部員、レイ、アルバス、ファルコ、ヘレン、カイト。この五人の冒険は、ボクにはとても羨ましかった。「氷の洞窟編」以外の話も、全部面白かった。
あれからレイとアルバスは、他のメンバーの協力で、なんとか元の関係になったらしい。若干、レイの方で悩んだことはあったみたいだが、アルバスのあの優しさで、二人は今まで以上の親友になった。
他の話を読んでいると、ボクもレイたちと一緒に冒険をしている気持になってきた。大きな鍾乳洞が、棚田のようになっている洞窟、海の色に染められた、波模様の洞窟、アルバスの気持ちが弾けたところとは違う氷の同窟、他にも、たくさんの洞窟があった。
その中には、ボクが好きだった人に連れて行ってもらった「愛のトンネル」という場所もあった。そこでは、レイとヘレンの間に起こった、「良いこと」について書かれていた。
そしてボクは、ついに最後の冒険話を読み終えようとしている。嬉しくもあり、悲しいような、奇妙な感情が出てきた。初めての感情だった。
三歳で誘拐され、それから十四年間も監禁され続けたボク、リース。ボクを監禁し、ボクが恋に落ちた彼女は、今はどこにいるのだろう。外国、というところへでも逃げているのだろうか。ボクも連れて行ってくれればよかったのに、彼女は一人で行ってしまった。
彼女は、ボクにとっての母で、姉で、恋人だった。ボクを優しく照らす、木漏れ日のような存在だった。それだというのに、十四年の歳月はまるでどうでもよかった、とでもいうように、彼女はあっけなくボクを突き放した。大きくなった我が子を、わざと傷つけ追い出す動物のように、彼女はボクに爪を立てた。
―私は、最低な人だから。さようなら、リース。
彼女はそう言って、ボクを誘拐したあの場所で、ボクの頬にキスをした。
「結局、口にはしてくれないんだね」
ボクは涙をこぼして、運転席の彼女に訴えた。それでも、彼女は何も言わぬまま、姿を消したのだ。ボクに残してくれたものと言えば、頬に残るかすかな唇の感触と、彼女の甘い香りだけだった。
ボクはもう一度、レイの書物に目を向けた。ボクを誘拐した彼女は、もしかしたら洞探にいたのかもしれない。そんな思いを抱きながら、ボクは残り少なくなったページを、丁寧に捲った。
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