目を開けると、そこはかつて住んでいた家の中だった。俺は、夕焼けでオレンジ色に染められたリビングのソファーに座っていた。


「おい、お前、弟の分際でアイスクリームなんか食ってんじゃねぇ」


 兄の声が聞こえた。いつの間にか俺の右手にはアイスクリームがあり、左手には大きなスプーンがあった。

「無視するな、馬鹿」

 兄の拳が振りあがる。俺はアイスクリームとスプーンを置いて、逃げていく。

「おい、逃げるな!」

 兄の怒鳴り声に、俺は恐れ飛び上がる。俺は、家の一番奥の、暗い地下室にもぐりこんだ。

「お前はやっぱり馬鹿だな」

 兄の足音が近くなる。俺の息遣いは早くなり、心臓の音と兄の足音が重なった。

「お前がここにいることはわかっているんだぞ。お前はいつもここへ来るからな」

 兄の声が近くなる。兄が、地下室のドアをカチャリと捻る。俺の鼓動は、さらに早くなっていく。

「見ぃつけたぁ」

 兄の気持ちの悪い笑顔が、地下室の暗闇に浮かび上がる。俺は恐れ戦き、うまく動かない足で後ろへ下がろうとする。

「おい、逃げるな」

 兄に胸倉を掴まれる。俺の頬は、汗と涙でごった返している。

「よぉし、お兄ちゃんがご褒美をあげるからな」

 兄の笑顔の裏に、強く握りしめられた拳が覗いている。ああ、殴られるんだ、そう思った。兄の拳が、俺の顔に近づいていく。引き寄せられていく。俺はぎゅっと目を瞑る。

 怖い。嫌だ。殴られたくない。




「あ!アルバスとレイが寝ちゃっているよ」

 ヘレンの耳につく高い声で、俺はハッと目を覚ました。背中がぐっしょり濡れていたのは、きっと暑くてでた汗ではないだろう。寝ていた時間は短かったはずなのに、今一番見たくない夢を見た。

「レイ、どうして泣いているの」

 俺の少し後に起きたアルバスは、眠そうに目をこすりながら、俺の涙をそっと拭った。

「あ、えっと、何でもない。目にゴミが入っただけだから」

 俺はアルバスの手を離すと、笑顔を作って見せた。一瞬、アルバスの顔が曇った気がしたが、俺は気づかないふりをした。

「もう行こうよ。早くいかないと帰れなくなる」

「よし、みんな行こう!」

 カイトの冷静な声に、ヘレンが同調する。

 そして俺たちは、氷の洞窟へと望むのだった。

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