2
目を開けると、そこはかつて住んでいた家の中だった。俺は、夕焼けでオレンジ色に染められたリビングのソファーに座っていた。
「おい、お前、弟の分際でアイスクリームなんか食ってんじゃねぇ」
兄の声が聞こえた。いつの間にか俺の右手にはアイスクリームがあり、左手には大きなスプーンがあった。
「無視するな、馬鹿」
兄の拳が振りあがる。俺はアイスクリームとスプーンを置いて、逃げていく。
「おい、逃げるな!」
兄の怒鳴り声に、俺は恐れ飛び上がる。俺は、家の一番奥の、暗い地下室にもぐりこんだ。
「お前はやっぱり馬鹿だな」
兄の足音が近くなる。俺の息遣いは早くなり、心臓の音と兄の足音が重なった。
「お前がここにいることはわかっているんだぞ。お前はいつもここへ来るからな」
兄の声が近くなる。兄が、地下室のドアをカチャリと捻る。俺の鼓動は、さらに早くなっていく。
「見ぃつけたぁ」
兄の気持ちの悪い笑顔が、地下室の暗闇に浮かび上がる。俺は恐れ戦き、うまく動かない足で後ろへ下がろうとする。
「おい、逃げるな」
兄に胸倉を掴まれる。俺の頬は、汗と涙でごった返している。
「よぉし、お兄ちゃんがご褒美をあげるからな」
兄の笑顔の裏に、強く握りしめられた拳が覗いている。ああ、殴られるんだ、そう思った。兄の拳が、俺の顔に近づいていく。引き寄せられていく。俺はぎゅっと目を瞑る。
怖い。嫌だ。殴られたくない。
「あ!アルバスとレイが寝ちゃっているよ」
ヘレンの耳につく高い声で、俺はハッと目を覚ました。背中がぐっしょり濡れていたのは、きっと暑くてでた汗ではないだろう。寝ていた時間は短かったはずなのに、今一番見たくない夢を見た。
「レイ、どうして泣いているの」
俺の少し後に起きたアルバスは、眠そうに目をこすりながら、俺の涙をそっと拭った。
「あ、えっと、何でもない。目にゴミが入っただけだから」
俺はアルバスの手を離すと、笑顔を作って見せた。一瞬、アルバスの顔が曇った気がしたが、俺は気づかないふりをした。
「もう行こうよ。早くいかないと帰れなくなる」
「よし、みんな行こう!」
カイトの冷静な声に、ヘレンが同調する。
そして俺たちは、氷の洞窟へと望むのだった。
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