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今日は、自分が初めて高校に来た日。転入生という異色の存在に、初めてなった日。保健室で気分を落ち着かせた後、担任らしい先生に呼ばれ、教室の前まで連れてこられた。
先生と一緒に教室に入った瞬間、それまで立ち込めていた暖かい空気が、急に冷めた気がした。
箱の中の生物は、自分たちとは違う異物を好奇心の目で観察する。自分たちに害を与える存在か否か、引き込む必要があるか否か、瞬時に察知する。
「今日からこの高校に転入する、リースくんだ。みんな、仲良くするように」
拍手は疎らになった。薄ら笑いを浮かべる男、きゃあきゃあ喚く女、教室の隅で存在感を消す奴、そして、自分。
こうして、苦痛と思われる高校生活が始まった。
その日は、特に何もないまま時が過ぎた。転入生への質問もなし、SNSのアドレス交換もなし。自分にとっては、それは楽に思えた。自分はおかしい、と周囲にバレなくて済むし、自分の数奇な過去を詮索されずに済む。自分を取り巻く興味の視線は鬱陶しかったが、昼が過ぎたころには、その数はグッと減った。
七限目終了のベルが鳴り、帰ろうとした所、放課後担任に呼ばれていたのを思い出した。面倒だと思いながら、ボクは職員室へ向かった。道中、何人かの生徒とすれ違ったが、自分に興味を示した者はひとりもいなかった。
スライド式のドアを開け、職員室に入ると、コーヒーのほろ苦い匂いが鼻を突いた。担任はどこだろう、とキョロキョロしていると、彼は手前の机でパソコンを凝視していた。
「先生、用って何ですか」
ぶっきらぼうに後ろから声をかけると、担任は驚いたように振り向いた。
「ああ、リースくんか。いや、部活のことなんだけどね、この学校、部活は必ずやれっていう風習があってね、いや、無理にとは言わないんだけどね、何かしら入ってほしくって」
「部活」という言葉に、自分の中の少年は興味を示した。
―今まで経験してこなかったのだから、やってみたらいいよ。きっと、楽しいよ。
少年心はそう訴えた。
―いや、今は高二の六月だぞ。中途半端だし、これから約一年、気が合わない奴らとつるむことになってもいいのか。いや、だめだ。やるべきではない。
大人心はそう訴えた。
「どうした?やっぱり無理そうか?」
担任の声で、我に返った。
「えっと……、」
「部員がいない部活なら、入りやすいのでは?先生、あなたが顧問をしている“ドウタン”なら、ちょうどいいでしょう」
言葉に詰まっていると、担任の隣の机から声が飛んできた。
「ああ、いい考えですね。リースくん、入ってみるか、“ドウタン”に」
自分の中の少年と大人は、短い会議の末、この案を承諾した。やってみよう、と。
「わかりました。その“ドウタン”っていうのに入ります」
担任は、にやにや気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「よし、じゃあ今から行こうか」
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