コミュ障吸血鬼、路地裏に誘われる


 そんなこんなで散歩を続けていると、こんな夜更けにも関わらず、柄の悪い男三人組が話し掛けてきた。

 どこからともなく現れ話し掛けられたため、僕の頭の中は混乱していた。


「ヨウ、お嬢ちゃん達。こんな夜更けに二人じゃ危ないぜ。俺達に付いてきな」


 これ、絶対に付いていっちゃダメなやつだ。

 ど、どうしよう……。

 コミュ障な僕には、どうしたらいいのか全くわからない。

 そう思っていると、ルルが


「おもしろそうなので、付いていきましょう」


 と呟いた。

 男三人組に聞こえていないところを見ると、相当小さく呟いたんだろう。

 吸血鬼ならではの会話方法だ。


「……つ、ついてくの……? 危ないよ……」

「大丈夫です。何かあっても、私がなんとかしますから。ね?」

「……わ、わかった……」


 渋々ながら了承した僕は、ルルと一緒に男三人組に付いていくことにした。


 ◆


 連れてこられたのは、全く人気(ひとけ)の無い路地裏。

 絶対そういうやつじゃん。

 僕達みたいな幼女に手を出そうとするってことは、この人達……ロリコンってこと?


「ねぇねぇ、なんでこんなところに連れてくるの?」

「!?」


 ルルから聞いたことのない声色と口調が飛び出してきた。

 それに驚いて思わずルルを凝視したけど、似たようなのを初めて会った時にされたのを思い出した。

 そう、名前を聞かれたあの時だ。

 あの時で思い出したけど、ルルには特大の悪口を言われたんだった。

 直後にアンナが来てくれたり、リオナと仲直りしたり色々あって忘れてたけど。

 リオナ、元気にしてるかな……。

 まぁ、それは置いておいて。



──えっ、置いとくの!?



 今、リオナの幻聴が聞こえたような……。

 気のせいか。

 それよりも、ルルのことだ。

 凄まじい悪口だったよね。

 ケチ、ブス、チビ、お胸ペタンコ、コミュ障、陰キャ吸血鬼と悪口のオンパレードだった。

 コミュ障と陰キャ吸血鬼は自覚あるからともかく、その前の4つは言っちゃいけない言葉ランキング1位2位を争うレベルの悪口だと思う。

 ヤバい、思い出しただけで泣きそう。

 自分で傷口に塩を塗っちゃったな……。

 言われたときは永遠に忘れない的なことを思ったような気がするし、元来根に持つタイプだけど、これだけは忘れよう。

 思い出すだけで落ち込むから。


「はぁ……」

「お姉様、どうされましたか?」

「……な、なんでもない……」

「そうですか?」

「うん」


 ルルはそれ以上、何も聞いてこなかった。


「なぁ、お嬢ちゃん達。俺達と楽しいことしないか?」


 男三人組のうちの一人がそんなことを言ってきた。

 絶対そういうことする気じゃないですかヤダー。


「楽しいことってなぁに?」

「まぁとにかくこっちおいで」


 男の手招きに、ルルは心配になるくらい素直に従って男に近づいていった。

 男の前まで行くと、ルルは流れるように男の足を払って仰向けに倒れさせた。

 そこにルルが覆い被さる。


「楽しいことって、こういうこと?」


 何をするのかと思った矢先、ルルが男の首に噛み付いた。


「な、何するんだ! や、やめろ! おい、お前ら助けろ!」


 それを聞いた他の二人が駆け寄ろうとすると、赤く光った瞳孔が二人を睨み付けた。


「こ、こいつ、吸血鬼だ!」

「おかしいと思ったんだよ! こんな夜更けに歩いてるなんて!」

「逃げるぞ! 命がいくつあっても足らねぇ!」

「あぁ! じゃあな!」

「おい、お前ら!」


 呼び止めようとするも、二人はすでに路地裏から消えた上、再びルルに噛み付かれたため、どうしようもない。

 静かな夜に、男の苦痛な叫びが響くのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る