コミュ障吸血鬼、誤解する


 散歩に意識を向けても、どうしても頭の隅っこではアンナのことがチラつく。

 おかしいな……。

 アンナの変態具合には付き合いきれない、って思ってたのに、それが見られなくなるのを寂しいと思ってる僕がいる。

 だんだん毒されてきてるのかな……。

 ちょっと癪だな。

 腹立つし、罰をもう一週間延ばしてやろうか……。

 いや、今回はやめとこう。

 先にやり過ぎたのは僕だし。

 今は散歩にだけ意識を持っていかないと、またルルに心配される。

 よし、この考えは封印!

 と言って封印できるものじゃなく、僕の気持ちの問題なんだけどね。

 結論付けて思考の海から帰還すると、アンナの屋敷から大分離れた場所にいることに気づいた。

 いつの間に、こんなに歩いたんだろう?

 周りをキョロキョロと見渡し、おかしいな、と首を傾げると、隣からクスッと笑い声が聞こえた。


「お姉様、またあの変態のことを考えてたんでしょう?」

「……う、うん……ごめん」

「謝らなくていいんです。それだけ、変態のことが大切なんですよね?」

「変態は大切じゃない! ノーモア変態!」


 なんてこと言うんだ!

 変態が大切になる人なんて、変態な人だけだから!


「必死になって……そんなに大切なんですか?」


 なんでニヤニヤしてるの?

 なんか、誤解されてる気がする……。


「違う……! (アブノーマルとか)そういうのじゃない……!」

「そんなに必死にならなくても、ルルは完璧に理解しております! 変態(アンナ)のことが大切だと!」


 まだ勘違いしてる!?

 どうやったら誤解を解けるのか、コミュ障な僕にはわからない。

 どうしたらいいの?


「お姉様はやはり、ツンデレというやつですね。普段、あれだけ冷たい態度をとっているのに、大切に思っているなんて……」


 ……ん?

 なんか、思ってたのと違う。

 えっと、もしかしなくても、ルルの言ってる変態って、アンナのこと……だよね?

 うわっ、恥ずかしい……!

 勘違いしてたの、ルルじゃなくて僕じゃん!

 なんで、奇跡的に会話が成立してたんだろう?

 あっ、ルルがアンナのことを名前じゃなく変態って呼ぶからか。


「お姉様? 急にきょとんとされて、どうしたのですか?」

「……う、ううん……な、なんでも、ないよ? うん……」


 こんな恥ずかしいこと、言えるわけがない。


「そうですか? それならばいいのですが……」

「……ほんとに、なんでもない……」

「わかりました。では、散歩の続きをしましょうか」

「……うん……」


 よかった……なんとかくぐり抜けられた。

 どんなに懇願されても、言うつもりはない。絶対に。

 というか、ルルが紛らわしい言い方するのがいけない。

 〝変態のことが大切〟だなんて、そんな言い方したら、誰だって言葉通りの意味で取っちゃうでしょ。

 まぁ、よく考えたらルルが変態って言うのは大体アンナに対してだから、それを考慮に入れていれば回避できた誤解だったけど……。

 僕はコミュ障だから仕方ないよね?


 ──ね?


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