コミュ障吸血鬼、憂う


「ちょっと! どうして二人してため息をつくのよ!」


 アンナがツッコミを入れてくる。

 それに対して僕が物申そうとするより先に、ルルが話し掛けてきた。


「さぁ、お姉様。こんな万年変態のことは放っておいて、少し出掛けませんか?」

「……良い、けど……なんで?」

「もちろん、お姉様ともっと仲良くなるためです!」


 そう言って僕のことを見つめてくるルルの目は、キラキラと輝いている。

 散歩に行く前の犬みたいだ。

 僕としては、今はアンナを放置しておきたいから、断る理由はない。


「……わかった……行こ」

「! ありがとうございます!」


 喜ぶルルと一緒にリビングを出ていこうとすると、


「ちょっ、ちょっと、ティアナ!? なんで私を置いていくの!? 私を捨てないで! お願いだから!」


 そんな、別れ際のカップルの彼女みたいなことを言いながら、アンナが縋り付いてきた。

 彼氏じゃないし、それを抜きにしても、捨てる捨てないの権限はアンナにあると思う。

 僕は、居候させてもらってる身分だから。

 というか、ちょっと出掛けるだけなのに、そこまで大袈裟なことを言わなくても……。


「てぃ、ティアナ? なんでそんな虚無めいた目をしているの?」

「……ルル、行こ……」

「はい。お姉様」

「ティアナ!? ねぇ、ちょっと!?」


 アンナの呼び止めを無視して、ルルと一緒にリビングを出た。


 ◆


「全く……あれが戦女神(ヴァルキュリア)だなんて、世も末ですよね。お姉様」

「……」


 よく考えたら、ちょっとぞんざいに扱いすぎたかも……。

 嫌われてないかな……ないよね?

 嫌われてたらどうしよう……。

 でも、悪いのはアンナで、それ相応の対応をしただけ……だけ、だけど……。

 もし、本当に僕のことを嫌いになってたら?

 もうあの変態染みた言動をすることも、優しく接してくれることもなくなる。

 それはちょっと、寂しい……かも。

 それでこそアンナってところもあるし。

 それに──


「お姉様」


 ルルに呼ばれたことで思考の海から帰還した僕は、ルルに顔を向ける。


「大丈夫です。短い付き合いですが、あの変態は、お姉様に嫌われることを気にすることはあっても、自分からお姉様を嫌いになることは天地がひっくり返ろうと、世界が滅びようと……たとえ、、【嫌いになる】のきの字すら思考に出てこないでしょう。そして、そういう人物だということは、私よりもお姉様の方が十二分にわかっているでしょう?」

「……でも……人の心は、移ろいやすいもの……だし……」

「そうかもしれません。ですが、今回に関して言えば、あの変態がお姉様を嫌いになることは決してないと断言できます」

「……どう、して……?」


 どうしてそこまで自信満々に言い切れるのか、僕には到底理解できなかった。


「なぜなら……。やっぱり、やめておきます。これは帰ってみればわかることですから、お姉様自身で確かめてください。それよりも、今は散歩を楽しみましょう!」


 ものすごく聞きたかったけど、ルルがそう言うので、不安を抱きながらも散歩に意識を向けることにした。


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