コミュ障吸血鬼、振り返る


 その後、二人のよくわからない誓いを適当に受け流した僕は、ルルの膝枕をやめ、ベッドに寝っ転がる。

 アンナのせいで、精神的な疲れが増した気がする。


「ティアナ?」

「お姉様?」

「……しばらく、一人にして……」


 二人がいると、ますます疲れが増す気がするから。


「あ、あの、お姉様……私、なにか気にさわることでもしましたか?」

「……べつに……」

「えっ、じゃあ、私?」

「……違う……」


 正確には、二人のせいだから。


「そんなはずありません! この人が来るまでは、私の膝枕のお陰で多少の元気はありました! ですが今は、その欠片もありません! 絶対にこの人のせいに決まってます!」

「はぁ? ティアナが違うって言ったんだから違うに決まってるでしょう?」


 うわ、また始まった……。


「それがお姉様の優しさだと気づけないだなんて、おつむが足りないんじゃないの?」

「はぁ!? 言わせておけば! よほど、火炙りにされたいのね……!」


 二人のやり取りに業を煮やし、気づけば起き上がって叫んでいた。


「もうっ!! おつむが足りてないのはルルもだし、アンナはさっきトラウマを抉らないって約束したでしょ!? もういいから一人にしてよ! 疲れる!」

『!?』

「アンナは問答無用で一緒にお風呂入れない期間もう一週間伸ばすから! あと、もしまた喧嘩したら、リオナと同じように一週間口利かないから! わかったらさっさと出てって!」


 ドアの方を指差しながらそう言うと、アンナとルルは「は、はいっ!!」と背筋を伸ばしながら返事をして、慌てて部屋を出ていった。


 ◆


 部屋の中がやっと静かになり、ぽすんっとベッドにダイブする。

 仰向けになり、天井を見つめる。

 自然と、ため息が漏れる。

 思えば、一人っきりになったのは洞窟にいたとき以来だ。

 最初は、ずっとあの洞窟にいるつもりだったけど、アンナがやってきて、ルネリアにも会って、日中の街中を歩いてたらぶっ倒れて……。

 お風呂事件があって、リオナに殺されかけて、そのリオナが勇者の末裔って知って……。

 アンナの仕事風景を見に行ったらリオナと喧嘩して、誘拐(?)されて、ルルに出会って、ルルにお姉様と呼ばれるようになって、ルネリアに呼び出されたと思ったら前世でクラスメイトだったって知って……。

 色々あったなぁ。

 ……あれ? 待って?



 ――よく考えたら今日って、この世界に来てから2日目だ!?



 濃っ!? この2日で濃密な出来事起こりすぎでしょ!!

 あぁ、驚いた。

 ま、まぁ、さっき思い出したように、アンナと出会ってから色々……うん、本当に色々あったから、仕方ないと言えば仕方ない。

 でもまさか2日しか経ってないとは……。


「案外、楽しんでるのかもなぁ」


 他人事のように呟く。

 コミュ障の僕に関わってくれる人達が居てくれてよかった。

 じゃなきゃ、誰かに笑いかけることも、怒鳴ることもなく、洞窟で一人寂しく真っ裸で(←ここ重要)過ごしてただろうし。

 思っていたよりも、僕は今の生活を楽しんでいるみたいだ。

 その点に関しては、あのゆるふわ神様に感謝しないとな。


「アンナを遣わしてくれて、ありがとう。――なんてね」


 気恥ずかしくて余分な一言が出てきた。

 あっ、でも、真っ裸で転生させたことについては根に持ってるからね?

 ……なんか、アンナ達がいないと静かで疲れることはないけど……寂しい、気がする。



 ――さっきはちょっと言い過ぎた気もするし……今から、謝りに行こうかな。



 そう思った僕は、おもむろに起き上がり、ベッドから降りてドアへと向かったのだった。


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