コミュ障吸血鬼、アンナの容赦のなさを知る


「誤魔化されんぞ!」


 いい感じの雰囲気をぶち壊すように片眼鏡をかけたおじさん(宰相)がそう言ってきた。

 急に大きな声出すからビクッてなったじゃないか。


「所詮、吸血鬼は吸血鬼。今は害がないように見せておいて後々本性を現す算段なのだろうが、そうはいかん。陛下、やはり今のうちに殺しておくべきです。あの吸血鬼共を討伐するご許可を」


 えっ……僕、殺される?


「……構いませんが、そうなると騎士団長を敵に回すことになりますよ?」

「そうですよ、宰相様。ティアナを傷付けようとするなら、たとえ世界中が敵でも斬って捨てます。邪神を倒した私に挑む覚悟があるのなら、どうぞかかってきてください?」


 あれ? 隣にいたはずのアンナが、いつの間にか宰相のおじさんの前にいる……。

 しかも、剣抜いて宰相のおじさんの首に当てちゃってる。

 そんなことしたら、罪に問われるんじゃ……。


「わかりますよ。吸血鬼は血を吸って人間をしもべにする危険な不死者アンデッドですから。でも、ティアナは違います。見てください、あの可愛さ! あれ以上はないと思えるほど完璧に整った顔、長くてサラサラな金色の髪、そして可憐さと華やかさと儚げさを併せ持った究極の美少女なんですよ! 本当に、人に害をなすような子に見えますか?」


 訴えるべきことは別にある気がするんだけど……。

 そう思わざるを得ないアンナの言葉を聞いた宰相のおじさんが、戸惑いながらも僕を見てきた。

 その表情というか目付きがあまりにも鋭くて怖かったため、僕は自然と縮こまる。

 体の震えが止まらない。

 あの人とは絶対に仲良くなれない。

 怖すぎる……!

 あれは完全に獲物を狙う強者の目だ。

 ……たぶん。


「お姉様、大丈夫です。命にかえても、私がお姉様を守りますから」


 体の震えに気付いたのか、僕の胸に顔を擦り付けていたルルがそう言ってきた。

 その表情は自信に満ち溢れていて、確かに守ってくれるんだという確信は持てた。

 でも、なぜか絶対的な安心感がない。

 それはリオナがお世話係になったときにも感じていた。

 リオナもルルも勇者の末裔だったり吸血鬼だったりして強いはずなんだけど……。

 理由がわからない。


「ティアナを怖がらせましたね……? 今ここで死にますか?」

「ご、誤解だ! 元々目付きが悪いのは騎士団長殿もご存知だろう!? 怯えさせてしまったのは不可抗力と言うものだ!」

「怖がらせたこと自体が罪なんですよ。怯えた姿も儚くて超絶可愛いですが、ティアナの心に傷を付けたことは事実ですから」


 そう言っているアンナの背中を見ていると、なんかこう、心の安寧が保たれる気がする……。

 こうして視界に入っているだけでそう思えるんだから、安心感がリオナやルルよりも桁違いに高いのは確かだ。

 言動は変態そのものだけど……。

 やっぱり、一番最初に出会って真っ先に僕の面倒を見るって言ってくれたからかな?


「ティアナは人畜無害な超絶可愛い吸血鬼だと認めるのなら、あなたの首は体と離れ離れになることはありません」

「み、認める! だから剣を納めてくれ!」


 宰相のおじさんがそう言うと、アンナは仕方なさそうに剣を鞘に納めた。

 剣を納めたのを見て、宰相のおじさんが安堵したように胸を撫で下ろす。

 ……それにしても、アンナって僕のことになると容赦がないよね。

 国のトップツーに剣を向けるなんて、後が怖いんだけど……。


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