コミュ障吸血鬼、懐かれる
二人が仲良さそうに話しているのを唖然と見る。
特に、リオナがアンナのことを名前で呼んでいることが信じられない。
あんなに頑として変態としか呼ばなかったのに……。
いったいどんな心境の変化が?
聞きたいけど、さっき一週間話さないって決めたし……うん、考えるのやめよ。
「それならべつにいいわよ? ティアナは私が連れて歩けばいいんだし」
「ありがとう、アンナ」
……なにが?
考えに夢中で、話を全く聞いてなかった……。
「さ、ティアナ、帰りましょう? 陛下も心配していらっしゃるから、顔を見せて安心させてあげましょう」
アンナが僕を抱き上げながらそう言ってきたので、戸惑いながらも頷いて答えた。
◆
城に戻ると、玉座の間に案内された。
リオナと北村の人達も一緒だ。
「ティアナさん、ご無事に戻られてなによりです。その手に持っているのは……」
「これは私が燃やした吸血鬼の燃え残りです。処分をティアナに任せようと思い、」
アンナがそう言うと、女王の傍に控えていた片眼鏡を着けたおじさんが割って入った。
「騎士団長殿。そのようなことをそなたの一存で決めるのは如何なものかと。陛下、ティアナという者とて吸血鬼。騎士団長殿を誑かして救う算段やも知れませぬ」
「恐れながら宰相様。此度の一件、被害者はこのティアナなのです。加害者の吸血鬼の処分を決める権利があるかと」
「宰相、騎士団長の言う通りです。ティアナさんは被害者。であれば沙汰を下す権利があります。それに、たとえティアナさんが復活を望んだとしても、騎士団長が居れば我が国に被害が及ぶことはありません。さぁ、ティアナさん。お好きなようになさってください」
女王にそう言われた僕は、手に持っている袋達に視線を移す。
どうしようか相談するつもりだったのに、相談できない雰囲気だ。
このままにしておくのも可哀想だけど、復活させたらアンナによる調教が待ってるし……。
まぁ、いいか。
復活させてもらったことの引き換えだって言えばいいんだし。
そう思った僕は、袋達の口を開いて中身を床に出す。
袋の中から灰が落ちると、ひとりでに動き出して一ヵ所に集まって次第に人の形を成していった。
そして、あの吸血鬼が完全復活を遂げた。
途端に周りに控えていた騎士達が剣を抜いて吸血鬼に向ける。
吸血鬼は騎士達のことは無視して目の前にいる僕とアンナを見て、次の瞬間土下座した。
「すみませんでした! もう二度としませんから、許してください!」
これはもしかして、燃やされたことが調教になってた?
「本当に悪かったと思ってる? 次にティアナに何かしたら……」
「ヒィッ!? しません! しませんから! 燃やすのだけは勘弁してください!」
いや、この反応は調教されたというより、トラウマを植え付けられたと言ったほうがいいかな。
「……アンナ、いじめはよくないよ……」
「ティアナ……」
「……悪いこと、もう、しないよね?」
正座したままの吸血鬼に頭を優しく撫でながら訊ねると、吸血鬼は頭を撫でていた僕の右手を両手でガシッと掴んだ。
その表情は、まるで救世主を見ているように見える。
「しません。お姉様に誓って、絶対にしません」
「……お姉、様? 僕が……?」
「はい。私ルルは、お姉様の広い心に感服いたしました。なので、お姉様の妹分にしてください!」
期待の目で僕を見ながらそう言ってきた。
ルルって名前だったんだ……可愛い名前。
けど、僕はべつにお姉様と呼ばれるほど女の子じゃないし、心は全く広くない。
だってリオナとアンナにはしでかしたことの罰を与えてるし、今回は直接なにかされたわけじゃないから根に持ってないだけ。
でもお姉様と呼ばれることはイヤじゃない。
なので、
「……いいよ……」
と反射的に返していた。
返した途端にルルが反応した。
「!? 本当ですか!? ありがとうございます、お姉様!」
そう言って今度は抱き付いてきた。
しかも、僕の胸に顔をうずめて擦り付けてる。
どうしたらいいかわからない僕は、取り敢えずルルの頭を優しく撫でたのだった。
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