コミュ障吸血鬼、元気づける
そうこうしているうちに、日が昇ってきた。
途端に、全身の力が抜けるような感覚に襲われて、体がフラつく。
「ティアナ!?」
すかさずアンナが支えてくれた。
まさか、こんなにすぐ力が抜けるなんて……。
太陽のこと、嫌いになりそう。
「えっ、もう朝なの!? 大変っ、急いで日の当たらない場所に連れていかなきゃ!」
朝日が昇ってきたのに気づいたアンナがそう言って、僕をお姫様抱っこしてリビングを出た。
◆
着いた部屋は、僕の部屋になった部屋だった。
カーテンは閉めてあったから、部屋は真っ暗だ。
暗くなった部屋を見たときの、この安心感……普通の人が感じてはいけない安心感な気がするけど、仕方ない。
だって、今の僕は吸血鬼だから。
僕をお姫様抱っこしているアンナは、部屋に入って僕をベッドに仰向けに寝かせると、なぜか僕の隣に横になった。
「アンナ……?」
「一緒に寝ましょう? 一緒にお風呂に入れないんだから、いいわよね?」
そう言って相変わらずの秀麗な微笑みを浮かべるアンナ。
もしかして、ここに連れてきたのって、それが目的だったってこと?
けど、まぁ、それくらいならいいかなと思って許可しようとした矢先……
「よくありません」
呆れたような雰囲気の声が、部屋に響いた。
「夜明け頃には訓練所にいるはずのアンナがいなかったので何事かと思えば……こういうことでしたか」
えっ、女王?
こんな朝早くになんでここに?
驚いた拍子に起き上がる。
「陛下ですか。ティアナとの友好を深める貴重な時間なので、邪魔しないでください」
「ティアナと仲良くなりたい気持ちはわかりますが、騎士団長としての仕事をしてもらわねば困ります。さぁ、行きますよ」
ベッドに近づいてきた女王が、アンナを引っ張り起こす。
「嫌です! このままティアナと一緒に寝るんです!」
「はいはい、仕事が最優先ですよ。ティアナさん、昨日はごめんなさい。また、改めてお詫びに伺いますので、今日はこれで失礼しますね」
そう言って、抵抗するアンナをあっさりと引き摺って部屋を出ていった。
部屋を出ていく間際、アンナが止めてとばかりに僕を呼んでいたけど、僕がなにかを返す前にドアが閉まっちゃったから、なにも言えなかった。
少しすると、勢いよくドアが開けられた。
入ってきたのは、焦った様子のリオナだった。
「い、今、この国の女王が変態を引き摺っていったぞ!? どういうことなんだ!?」
遂にアンナのことを〝変態〟としか呼ばなくなったリオナ。
元々名前で呼んだことないけど……。
「えっと、その、アンナは、騎士団長、だから……」
「なん……だと……? ということは、あの変態が邪神を倒した〝
えっ、なにその厨二心をくすぐられるような二つ名……。
というか、邪神って、あれでしょ?
人間に害を及ぼす、超悪くてゲキツヨな神様のことでしょ?
アンナ、そんなすごいのと戦ってたんだ……。
そんなのに勝ってれば、世界中を敵に回しても守れるって豪語したのも納得だよね。
そこは見直した。
けど、〝
あんなに僕への想いをぶちまけてるアンナが、邪神なんて恐ろしい怪物を倒すという、とんでもない偉業を成し遂げていたなんて……。
そしてここにも一人、現実を受け入れられない人が……
「〝
「えっ?」
思わぬ暴露につい声が漏れた。
「どういう、こと?」
「小さい頃、親父から『いいかリオナ、邪神を倒した〝
そこで言葉を止め、拳を握り締めるリオナ。
相当お怒りの様子だけど、単にリオナが早とちりしただけな気がする。
お父さんは、たぶん強く逞しく生きてほしくてそう言っただけで、男のようになってほしくて言ったわけじゃないと思う。
そう思いつつ、ベッドを降りてリオナのもとへ行く。
そして、リオナが握り締めている拳を手に取る。
「……ティアナ?」
「その……カッコいいことは、言えないけど……言葉って、言い回しとかニュアンスとかで、違う意味に取ったり取られたりするから……気にしたら、負けだよ?」
僕が、そうだったから……。
「ティアナ……?」
あ、いけないいけない。
元気づけるつもりが、僕が暗くなっちゃった。
「と、とにかく、えっと……元気出してね?」
そう言い終えた僕は、急いでベッドに戻って掛け布団を被る。
言ったっ、言えたっ、伝わってるかはわからないけど、言いたいことは言えた……!
けど、もう一回やろうとしてできる気がしないんだよね……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます