コミュ障吸血鬼、リオナの変貌に戸惑う


 いつの間にか寝ていたようで、気づくと隣でというか目の前で、リオナが寝息を立てていた。

 えっ、なにこの状況?

 なんでリオナが僕の隣で寝てるの?

 というか……あれ? なんか腰に巻き付いてるなと思ったらこれ、もしかしなくても、抱き締められてる?

 通りでこんなに顔が近いわけだ。

 でも、ますます、なんでこうなっているのかわからなくなってきた。

 そもそも、今、何時なんだろう?

 少し体を起こして時計を見ると、9時を指していた。

 アナログ時計だから午前と午後の区別がつかないけど、今回は簡単だ。

 アンナがいないから、午前9時。

 女王に無理やり連れていかれたアンナが、仕事を早く終わらせないわけがない。

 それに、一緒に寝れなかったのに、リオナが僕と一緒に寝てたら、うるさくなって僕が起きるのはそれが原因になるはず。

 それがまだ帰ってきてないってことは、つまり僕が掛け布団を被ってから4~5時間くらいしか経ってないってことだ。

 それにしても、どういうわけでリオナが僕を抱き枕みたいにして寝ているのか、さっぱりわからない。

 がっちりホールドされてて、抜け出せないし……。

 どうしよう?

 そんなことを考えながらリオナの寝顔を見る。

 改めて見ると、リオナもアンナに負けず劣らずの美人さんだ。

 こんなに綺麗なのに男口調なんて、もったいない。

 その原因がアンナにあると思うと、なんだか申し訳ない気持ちになる。

 リオナ自身の落ち度もあるけど、アンナが噂になるようなことをしたのがいけない。

 リオナのお父さんも、なんでアンナが〝男のように強くて逞しい〟なんてことを言ったんだろう。

 そりゃ邪神を倒すくらい強くて逞しいかもしれないけど、男のようになんて付けたらリオナの性格上、勘違いすることはわかってたはずなのに。

 会ってまだ数時間の僕でも、リオナが〝常識を持ち合わせている思い込みの激しい人〟っていうのはわかる。

 吸血鬼ってだけで、村を襲ったわけでもない僕に襲いかかってきたり、お父さんの言葉を曲解したりするくらいだから。

 なのに僕が思ってることを言い当てるのは、矛盾してる気がするけど……。


「ティアナ」

「!?」


 急に声をかけられて体がビクついた。

 いや、厳密に言えば、〝急に声をかけられたから〟じゃなく、〝今まで聞いたことのない声質で急に声をかけられた〟から。

 でも、ここにいるのは僕とリオナだけ。

 それに、目の前から聞こえてきた。

 つまり、声をかけてきたのは、リオナってことになる。


「驚かせてごめんね。それと、さっきはありがとう。ティアナのお陰で吹っ切れた」


 優しげな口調でそう言って僕をギュッと抱き締めるリオナ。

 えっ……誰? と思ってしまうほど、雰囲気が変わっている。

 男口調じゃなくなってるし、微笑みながら僕の頭を撫でてるし、吹っ切れただけでここまで変わるものなの?


「あっ、やっぱり驚くよね。でも、こっちが本当の私だから。――男口調にしたの、一昨日おとといの村が襲われた後からだし」

「そ、そう、なんだ……。でも、どうして……?」

「もう、どうでもよくなったから」

「えっ?」

「私、気づいたの。罪滅ぼしだけじゃなくて、自分の意思でティアナと一緒にいたいって」


 ん? なんか、告白っぽく聞こえない?


「だから、男口調はやめ。――ティアナには、本当の私を知ってほしい」


 やっぱり告白っぽい言い回しに聞こえるんだけど、僕の気のせい……だよね?

 僕、今、女の子だし。

 うん、気のせいに違いな……


「私を、一生傍に置いてくれる……かな?」

 

 ――全然気のせいじゃなかった……ッ!!?


 あ、いや、まだ告白って決まったわけじゃない。

 僕の勘違いっていう可能性は、なきにしもあらずだ。


「ダメ……かな?」


 ま、まぁ、結婚してほしいとか言われたわけじゃないから、いいよね?


「いいよ……」

「!? ありがとう!」


 僕の返事を聞いたリオナは、嬉しそうに僕を抱き締める。

 これ、アンナが知ったら……。

 嫌な予感しかしないから、言わないようにしよう。


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