コミュ障吸血鬼、憤慨する


 リビングに残された僕とリオナ。

 え、なにこれ、すごく気まずい……。

 さっきはアンナがいたからよかったけど、二人っきりになるとなにを話せばいいのかわからない。

 頭が真っ白な僕は、顔を俯かせ、それでも〝なにか話さなきゃ〟と頭を回転させる。

 まぁ、それでなにか話せるなら今まで苦労しなかったし、コミュ障にもなってないわけで――なにも話すことが見つからないのは当然のことだ。

 それでも――



 ――なにか、なにか話さないと……。



 そう思った僕は思考をフル回転させる。

 それでもなにも思い浮かばず、気が落ちてさらに顔が俯く。

 アンナのバカ……なんで僕とリオナを二人っきりにしたんだ……。

 コミュ障な僕を、他人と、それも襲い掛かってきた人と二人っきりにするなんて……罰を重くしてやろうか。

 怒りが煮えたぎっていると、不意に肩になにか鋭いものが触れた。


「……!?」


 驚いた僕は、反射的にソファーの側面に跳んだ。

 恐る恐る覗くと、手を伸ばしたリオナが、ばつが悪そうな顔をして立っていた。

 な、なんだ、ただ単に触れようとしただけか。

 てっきり、刃物でも突き付けられたのかと思って、全力で逃げちゃった。

 僕、反射神経だけはいいんだよね。

 定規を落として掴むやつ、〝0〟と〝定規の端〟の間の〝隙間〟を、親指と人差し指で挟んで止めれたし。

 まぁ、自分で落として自分でキャッチしたから、キャッチできて当然かもだけど……。

 それでも、今の動きを見れば反射神経がいいのは一目瞭然だと思う。

 そんなことより、反射的にとはいえ全力で逃げちゃったんだから、リオナに謝らなきゃ。

 こういう場合、顔を見ず勢いで言った方が緊張せずに言えるので、僕はソファーの側面で顔を隠しつつ謝った。


「……ご、ごめんなさい……!」

「いや、こっちこそ、驚かせてしまったようですまない……。許してくれ」


 優しい声で謝るリオナ。

 でも、それに対して返す言葉が出てこなくて、僕は黙り込む。

 リオナも、それ以降なにも言ってこなくなり、再び場に沈黙が流れる。

 き、気まずい……。

 早く戻ってきてよ……アンナ。

 その直後、いきなりアンナの叫び声が聞こえてきた。


『決まらない!!!』


 遠くからなのにハッキリと決まらないって聞き取れた。

 よほどの大声で叫んだようだ。

 と思ったけど、リオナには聞こえていないようで、ソファーの側面から見たリオナは、全く反応を示していなかった。


「い、いま、アンナの声、した……よね?」

「えっ?」


 僕が話し掛けたことに驚くリオナ。

 それでも、僕の問いに答えてくれた。


「あ、いや、オレには聞こえなかったぞ?」


 えっ、聞こえたの僕だけ?

 そういえば、遠くのはずなのにクリアに聞き取れた。

 ということは……僕、前世のときより格段に耳がよくなってる……?

 そう思って耳を澄ますと、今度はアンナの歌声が聞こえてきた。


『ど~れ~に~し~よ~う~か~な、い~だ~い~な~る~そ~う~ぞ~う~し~ん~さ~ま~の~み~こ~こ~ろ~の~ま~ま~に……!』


 えっ、それってたぶん、僕の前世で言うところの「どれにしようかな、天の神様の言う通り」だよね?

 というか、アンナはなにを選んでるんだろうか。

 ……まさか、僕に用意する服を選ぶのに使ったわけじゃないよね?

 もしそうなら罰を重くするけど。

 そう思ったところへ、リオナが口を開いた。


「吸血鬼の種族は、特別耳がいいらしい。コウモリが出している超音波すら聞き取ることができると、村の書物で読んだことがある。あの変態の声が聞こえたのは、そのせいだと思う」


 なるほど。

 というか、リオナ、アンナのこと変態認定してるんだ……。

 同意見だけど。

 再び耳を澄ませると……


『ど~れ~に~し~よ~う~か~な、い~だ~い~な~る~そ~う~ぞ~う~し~ん~さ~ま~の~み~こ~こ~ろ~の~ま~ま~に……!』


 さっきと同じ歌を唄ってるど、アンナ、もしかしなくてもそれ、僕に用意する服を選んでるよね?

 あと8回繰り返すつもりだよね?

 さすがに、そんな選び方された服を着るつもりはないよ?

 そっか、アンナにとって僕って、そんなに価値はなかったのか……。

 そう思うと、はらわたが煮えくり返るような気分になった。



 ――よし、決めた!



 一緒にお風呂に入れなくなる期間を、一週間から二週間に引き延ばそう。


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