アンナ・クロンツェル


 私はアンナ・クロンツェル。

 スキルや魔法の関係から、騎士の中でも一番強い者に与えられる騎士団長の職に就いているわ。

 そもそも、私は騎士になりたいわけではなかった。

 自分から死ぬかもしれない職業に就きたいなんて、微塵も思うわけがない。

 なのになぜ、騎士になったのか。

 それは、実家が代々優秀な騎士を輩出する家系で、親の意向が強く働いたというのもある。

 けれど、一番の理由は、スキルや魔法の才能があって、今の陛下からスカウトされたから。

 今では世界の誰を敵に回しても互角以上に戦えるほど強くなってしまった。

 それと、私は女の子好きと言われているけれど、それは誤解。

 遠征の先々で女の子を救っていたら、いつの間にかそんなレッテルを貼られていたというだけで、女の子好きという

 そう、今の私は、正真正銘の女の子好きになりつつある。

 それは、言わずもがな、私の理想の女の子であるティアナに出会ったから。

 ティアナの可愛さと言ったら、これ以上はないのではないかというくらい、儚げで、守ってあげたくなって、もう、ひとつひとつの仕草が可愛い。

 ティアナの前世は男の子だったらしいけれど、今のティアナを見る限りそれを思わせないほど、女の子そのもの。

 まぁ、一人称を〝僕〟にしているから、ちょっと残念な気もするけれど。

 それはそれで可愛いく思ってしまう私は、もう末期かもしれないわね……。

 そんな私は今、ティアナから〝シンプルな服を今日中に10着用意できたら一週間に減らす〟と言われ、現在、私の家のとある部屋に来ている。

 私がお風呂であんなことを言ってしまったから仕方ないにしろ、一緒にお風呂入れなくなるのを阻止できてよかった。

 一週間一緒に入れないは入れないで辛いけれど、一生一緒に入れなくなるよりはマシよね。

 そんなことを思いつつ、私は部屋に置かれた数々の衣装タンスの中の一つの前に立ち、そのタンスの扉を開く。

 中には、私が昔着ていた服がぎっしりと収納されている。

 なぜ残しているのかというと……



 ――捨てるのがもったいない。



 ただそれだけ。

 でも、そのお陰で、ティアナにシンプルな服を用意してあげられるのだから……昔の私、グッジョブ!

 ガッツポーズを決めた私は、どの服にするかの選定に入ったのだった。


 ◆


 ……ダメ、決まらない。

 決して、シンプルな服が無いわけではないのよ?

 むしろシンプルな服しかないもの。

 ただ、どれもティアナに似合いそうで、10着に絞りきれないだけなの。

 どの服も、ティアナに着せたい! っていう想いが強く出てきてしまうから。

 どうしたら……。

 思考を巡らせた私は、ひとつの結論を導き出した。


「そうよっ、取り敢えず10着渡して、後から他のを渡せばいいのよ!」


 ……名案過ぎてつい声に出てしまったわ。

 でもそうでしょ?

 ティアナは罰の意味合いで10着と言っただけで、10着だけ欲しいとは言ってないもの。

 だったら、後から追加の服を渡しても問題ないわよね。

 さて、取り敢えずの10着を決めましょうか。



 10分後――



「決められない!!!」



 たまらず叫ぶ。

 そうよ、ティアナに似合いそうで10着に絞れなかったんだから、目的を変えても決められないことに変わりないじゃない……。

 バカね……私。

 こうなったら……。

 私は、数十着ある服それぞれをランダムに指差しながら歌を唄った。


「ど~れ~に~し~よ~う~か~な、い~だ~い~な~る~そ~う~ぞ~う~し~ん~さ~ま~の~み~こ~こ~ろ~の~ま~ま~に……!」


 歌い終わったところで指を差していた服を、自分の傍に置く。

 これをあと9回繰り返して、取り敢えずティアナに渡す10着を決める。

 自分で決められないときは創造神様に決めてもらうのが一番よね。

 こうして、ティアナに渡す10着を選ぶことに成功した私は、ティアナのところへ戻るのだった。


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