コミュ障吸血鬼、倒れる
貰った傘(この場合は日傘?)のお陰で確かに灰にならずに太陽の下を歩ける。
でも、体のぐったりさは変わらないから、歩くのがつらい。
ちなみに、今は服屋で僕の服を買い終えるとなぜか馬車が無くて疑問を抱きつつも聞くことができずにそのままアンナ・クロンツェルの家に向かって歩いている。
なぜか女王も一緒に歩いてるけど。
「陛下、そろそろ帰ってください。私の家は城から数分なんですから、ティアナにはすぐ会えます。それに、実務もあるでしょう?」
「大丈夫です。……明日やれば」
「目を逸らしながら言われても、説得力ないですよ……?」
上でなにかやり取りが繰り広げられてるけど、日傘を差しているから二人の表情を見ることができない。
まぁ、日傘どけたら日に当たって灰になるから見ることなんて不可能なわけだけど。
というか、なんでこの二人は日傘を差して歩いてる僕を挟むようにして歩いてるわけ?
歩きにくくないの?
日傘邪魔じゃない?
それはそれとして、この服。
女の子の服なのはいいとして、なんでこんなに……
なんでこんなにフリルが付いてるの―――ッ!?
当然選んだのはアンナ・クロンツェルと女王だ。
けど、スカートにフリル、腕の袖口にフリル、ハイソックスにフリル、カチューシャにフリル……と、フリルが施せられるところにはすべてフリルが付いているのはどうかと思うんだ。
これはもう可愛さの暴力だよ。
フリルは確かに可愛い。
でも、物量に任せた可愛さは最早暴力でしかないと思うんだ。
元男の僕でもそのくらいはわかる。
だから、シンプルイズベスト。
ワンアクセントでスカートのみフリルとかそういう方がいいと思うな。
まぁ、自分が今どんな格好になっているのか、自分の目でしか見てないからどんな感じなのかさっぱりわからないけど。
なぜなら、お店の鏡で自分の姿を見ようとしたら、鏡の前に立っているはずなのに映っていなかったから。
つまり、これからの身嗜みは自分でできないってことだ。
これがあるのに、なんであのゆるふわ神様は僕を女の子にしたんだろう……不思議だ。
「とにかく、早く帰ってください。あとは私がティアナの面倒を見ますから」
「い~や~で~すぅ。仕事なんて面倒なことより可愛いティアナさんをもっと愛でたいので帰りません~!」
「可愛く言ってもダメなものはダメです。帰ってください。それに、陛下の可愛さはティアナの可愛さの〝無量大数分の1〟です。私に効くはずないでしょう」
「くっ、やはり美少女の可愛さは別格……ッ! 私もそれなりに美人だけど、20代では少女に敵わないというのか……!」
「陛下、また素が出てます。落ち着いてください」
またなにか繰り広げられてる……。
というか……アンナ・クロンツェルの家、まだ……?
結構歩いた気がするけど、全然着かない。
本当になんで馬車がなくなってたんだろう……。
まぁ、よく考えればあの時のアンナ・クロンツェルと女王は冷静そのものだった。
『あ、馬車がなくなってるわね。ティアナには酷だけど、仕方ないから
『そうですね。わたくしも
あの言葉をそのまま汲み取るなら、僕と一緒に歩きたいからってことになる。
それに、アンナ・クロンツェルは女の子好きだから僕との友好を深めるためだとわかるし、女王は保護欲に目覚めたからだろうし。
と、そこまで思考を巡らせたところで、本格的に体のぐったりさが増してその場に倒れる。
「ティアナ!?」
「ティアナさん!?」
――あ、あれ? なんか、体が動かなく……。
そう思ったところで、意識が途切れた。
◆
目が覚めると、全く知らない天井が目に入ってきた。
どこ、ここ……?
そう思いながらゆっくりと起き上がる。
あんなにぐったりだった体が、今はすこぶる調子がいい。
ふと傍らを見ると、アンナ・クロンツェルが椅子に座ってベッドの上に腕を枕にして寝ていた。
ということは、アンナ・クロンツェルの家?
それに、アンナ・クロンツェルが寝ているということは、今は夜ってこと?
部屋を見渡し柱時計をみつける。
2時を指しているけど、これが午前なのか午後なのかはさっぱりわからない。
ベッドの脇にある閉めきられたカーテンを、万が一午後だった場合に備えて当たらないようにカーテンを開ける側に座り、少し隙間を開ける。
あれ? 光が差し込まない……?
恐る恐る隙間を覗く。
見れば、下に街並みが、上に満点の星空が広がっていた。
前世では見たことないくらい星の数が多い。
綺麗だなと思いながら眺めていると、後ろで「んぅ……」と唸る声がした。
振り返ると、アンナ・クロンツェルが顔を上げたところだった。
そして僕と目が合うなり……
「ティアナ!!」
思いっきり抱きついてきた。
「よかった……! 本当によかった……!」
僕の肩の上で涙を流しながらそう言った。
泣くほどの心配をしてくれていたことに、心が暖かくなる。
「倒れて日傘が転がって日に当たって灰になりかけた時は心臓が止まるかと思ったけれど、陛下が冷静に対処してくださったお陰で灰にならずに済んだのよ? 本当に、心配したんだから……」
抱き締める強さが増す。
「ご、ごめん、なさい……」
「いいえ、謝るのはこっちよ……! ティアナと仲良くなりたいがためにティアナが吸血鬼なのをわかってて日向を歩かせたんだから……!」
言い終えると、泣きながらごめんねを連呼し始める。
こうしてくれるところをみると、この人は本当に僕のことを大事にしてくれてるんだなと思う。
まさかこんなに優しくしてもらえるなんて、思ってもみなかったから……。
まぁ、この人が女の子好きで僕が女の子だからっていうのが大きいだろうけど。
それでも、アンナ・クロンツェル――アンナは、いい人だと思う。
そうだと信じて前世では男だったこと、打ち明けよう。
「アンナは、優しいね……」
「ティアナ……?」
「知ってるかわからないけど……僕、前世では男……だったんだよ? それでも、面倒見てくれる?」
は、初めて、本心を的確に言えた……!
でも、アンナと顔を合わせた瞬間に悟った。
――あ、これ、顔を見てなかったからだ……。
アンナの顔は優しいけど、僕にとって他人と顔を合わせることはトラウマを呼び起こす起爆剤に等しい。
アンナの顔を前にした瞬間、頭の中が真っ白になったのがその証拠だ。
そのアンナはというと……
「そんなの……当たり前じゃない! だいたい、ティアナの前世が男だろうと女だろうと、今が男だろうと女だろうと関係ない。私があなたのことを面倒をみたいと思ったからみるの。それに、言ったでしょう? 私はなにがあろうとティアナの味方。たとえ世界中を敵に回しても守って見せるって」
そう言って微笑んで見せる。
相変わらずの秀麗な微笑み。
ここまでされて込み上げるものがあるのに、一向に涙が出ない。
僕、そんなに薄情ではなかったはず……。
でも、これだけは伝えないと。
そう思った僕は、できているかわからない笑顔を浮かべ……
「……ありがとう」
お礼の気持ちを口にした。
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