第19話大和を巡る…一線は?2

「大和三山は、本当に大和三山なんだ。」

 玉輝が、わけの分からないことを言った。しかし、藤原京跡から三山が三方に見えると思わず、そう口にしてしまった。

「お兄ちゃん、馬鹿みたいだよ。でも、藤原京がここに作られたというのがわかるわ。」

 鏡華もうっとりするように三山を見まわした。耳成山を登り、歩いて香久山に、それから藤原京跡と来たのだ。どちらも三輪山に比べると歩きやすかった。それでもかなり疲れたし、神々しいものを身体に受けたように感じた。ただ、耳成山は人があまりいなかったが、逆にごみがところどころに目に入った。

「あとは畝傍山だね。」

「なんか限界が近づいてきたかんじだよ。」

「お兄ちゃん、だらしがないんだから。でも、私も同じだよ~。」 

 二人は、にっこりと頬笑みつつ見つめ合った。畝傍山まではかなり距離があった。重くなり始めた足に力を込めて歩く。畝傍山につくと、そこの標識に、畝傍山と香久山が休火山だと書いてあって、二人とも驚きながら、最後の力で登り始める。香久山と畝傍山は人が多いせいか、ごみは見かけなかった。三山の中では、疲れ切っている以上に登るのが辛い。

「噴火口を見るコースで降りようか?」

「そうだね。ここで噴火口なんて見るなんて思わなかったね。」

 下りの道は、かなりきつかった。

“今晩に支障を生じないかな?”

と二人は心配しつつ、これは切り上げようとは言わなかった。なんか、全てを果たすことが、今晩の条件のように思えたからだ。勿論、二人が勝手に思っているだけのことだが。

 畝傍山を下山し終わった時には、

「もう限界だよ~、お兄ちゃん!」

「宿まで行かなきゃならないなんて地獄だ。」 

と言いつつ、タクシーでという発想は二人からは全く出てこなかった。“もったいない!”である、勿論。足を引きずりながら、最寄り駅に、更に電車を乗り継いで、長谷寺駅に、少しでも気を抜くと、瞼が下がって来る。寝過ごしたら大変、ということだ、単に。駅から5分程度のはずだが、その距離が驚くほど長い。宿の看板が視界に入ったときには、“翼よ、あれがパリの灯だ“状態の二人だった。

「歩いた後のご飯は美味しかったね。」

「本当だ。どんどん入ったよ。」

“それに、後片付けがないし!”

チェックイン、部屋に入り、直ぐに大風呂に、そして夕食が終わり、二人は部屋に戻って、もう一度軽く入浴して、今二人っきりで向かい合って座っていた。二人とも落ち着かなかった。とりとめない話しでもしようとしても、いつもと違い、会話は途切れがちで、二人とも直ぐ顔が下を向いてしまう。買った缶カクテルも飲み終わったし、歯も磨き終わった。

「もう…、10時過ぎたな。」

「もうそろそろ寝ようか?」

「今日はよく歩いたして…。」

「そうよね、疲れたもんね。」

“このままだと、布団にはいると同時に、バタンキューになりそう!それは駄目!”

 鏡華は家から持参したバスタオルを敷き布団の上に敷き始めた。

「汚れると悪いじゃない?」

 顔を赤くはして、辯解するように言った。玉輝は、しきりに視線をそらしながら、コンドームの袋を枕元にそっと置いた。

「お兄ちゃん?」

 目ざとく見つけた鏡華が、いたずらっぽくニヤニヤした。

「一応、用意しただけだよ。やっぱりりさあ、避…は…やっぱりだろう?鏡華だって、用意したじゃないか?」

「もう、お兄ちゃんの意地悪!」

 拗ねるような素振りをする鏡華の手を取って、玉輝握りしめた。鏡華が握りまし返す。唇を重ねて、舌を差し入れて舌を互いに絡まさせて、唾液を流し込み、飲み込む。いつもの営みなのに、二人とも震えた。唇を離しては重ねることを何度も繰り返して、荒い息づかいになり、

「愛しているよ、鏡華。」

「わたしも。お兄ちゃん!」

 布団の中に入り手を握りながら、唇をついばみ合っていながら、今ひとつ、もう一歩を躊躇しているうちに、

「あ!」

「あれ?」

 二人は、障子から日が差し込んでいるのに気が付いた。互いに手を、絡ませているのが、相手の顔が目の前に見えた。

「え~、僕達、その、なんだ…、やったのかな?」

「お兄ちゃん、まさか覚えいない?」

 呆れた顔をして睨んだ後、下を向いて、恥ずかしそうに、

「私も覚えていないの。」

 慌てて、自分達の、身体を確かめる。

「何もしてない?」

「あのまま、二人して眠った?」

 顔を見詰め合っているうちに、二人して吹き出して、笑い合った。“今から”まだ早いからと思ったが、何となく気まずい感じでそのまま見詰め合って時間が過ぎてしまった。それ以上に、

「身体が痛いよ~。」

「筋肉痛だ。僕も痛い、身体中!」

 そう言って、また二人で笑った。もう、笑うしかなかったが。

“焦らなくても、今日もある!”

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