第18話大和を巡る…一線は?

“別に友人達に刺激されたからと言うんじゃないんですよ。”

 玉輝と鏡華は、三輪山の山頂で心の中で、必死になっており自 己弁護しながら、手をあわせていた。奈良県大神神社。三輪山そのものをご神体にしている神社である。元々は、神聖なご神体の三輪山には原則として入れなかったのだが、近年、参拝に一般参拝者にも解放されている。通常の参拝所から奥に入り、許可と参拝料を支払い、注意を受けてから参拝路の図をもらい、参拝路入り口にある竹杖を借り、参拝のための登山道に入る。石段などで一応整備されておいるものの、あくまで一応であり、かなり傾斜のきつい場所もある。すれ違う人、追い抜く、追い抜かれる同士が常に挨拶を交わすが、次第にそのことが励ましのように感じられてくる。まだ、前半のところの水打ちの修行の小屋を、頂上の祠か何かと勘違い、期待する程度に疲れてしまう。

「ここが頂上ですか?」

「考えが甘かったよ!」

 そんな叫びを耳にしながら、玉輝と鏡華は水筒のお茶で水分補給を取っていた。2月後半の日本晴れの快晴ながら空気は冷たい中にあっても、汗がしちり落ちるくらいだった。汗は出ても、体は冷える、濡れた衣服は乾きにくく、体を冷やしてしまう。夏のような高温多湿の地獄や気持がいいが、スズメバチなど危ない生き物を心配しないですむのが、いいところだろうか。

「400㍍そこそこのところで、こんなんだと、登山は僕には駄目だな?」

「まだ、半分だもんね。さらに、今日は始まったばかりだしね、頑張らないと。」

「そうだな、まだ始まりだもんな。」

 それから竹杖をつきながら、荒い息になりながらも、あと4合、あと3と、時には手をつなぎつつ、頂上まで登ったのだ。あまり信心深いとは言えない二人だったが、頂上で手をあわせていると心霊を感じてしまう。

「あら~、恋人でお詣り?お似合いのカップルね。」

とすれ違うおばさんに言われて、真っ赤になって、さらに強く手を握りあいつつ、下山するが一二度は、どちらかが足をすべらせそうになった。下山は楽に感じるが、足元をかえって注意しないとならない。それと同時に、登る時と同様に、すれ違う人達に挨拶をするが、何となく心持ちが変わっていた、余裕を感じて“ご苦労様、頑張って”という気持だった。

「父さんを馬鹿にできないな。」

父も参拝に来て、帰りは二度滑って転んだと笑っていたのを思い出した。

「まだ、余裕はあるか?」

「勿論よ。大和三山登るんたもんね。」

 本当の目的は、夜にあるのだが、二人は一日でこの四つの山を踏破することにこだわっていた。父が踏破していたからだが、三輪山と大和三山は別々の日に登ったらのだが、片道電車で一時間、帰り買い物をして、料理をして等しているのだから、それに勝つと言うことは、4山を一日でということに、という理屈にならない理屈に拘っていた。

 そもそも、本来の目的にこのことがどうして関係するのか。

 そもそもは、

「兄さんときたら、私の彼氏が来ると不愉快な顔をするんだから、失礼しちゃうわ。自分は、恋人を作っているくせに。」

「俺が何時、そんなことをした?不愉快そうに、かつ、皮肉やらを言いつのっているのは、お前の方じゃないか。」

「私達は健全な交際よ。兄さん達とはちがうの!」

「それはどういう意味だ。キスくらいしかしてない!」

「へえ~、そうなんだ~。」

「お前らは如何なんだ?」

「え?そ、そ、キスくらいは…。」

 玉輝と鏡華は、畝傍兄妹から、相談を受けたというか、言い合い又はのろけあいを見せつけられたというか、兎に角それにうんざりした。クリスマス・パーティーで、互いの恋人が遅れて来ることをからかい合っている内に揉めだし、初瀬川兄妹に、互いの正当性を認めさせようと話しを持ちかけて来たのである。

「お互いにの相手を、新しい弟、姉さんと思って、愚痴を言うくらいになれよ。」

「今の姿は、立派なブラコン、シスコンに見えるわよ。」

 初瀬川兄妹に指摘されて絶句する二人だったが、そのうち互いの交際相手が、やって来たので自然に納まった。パーティーの後半には互いの交際相手と歓談していた。白瓜と黒田はカップルが板についたというか、カップルオーラを発していた。

「どこまで行った?」

などの失礼な質問にも、上手く受け流して、そこには交際している者の余裕すら感じさせられた。クリスマス・イブ、本来の意味とは全く関係ないが、だんだんと募ってきている気持が、高まりそうだと感じていた。二人になって過ごして、自分から積極的に一歩も二歩も進もう、前に。二人っきりの家で夜にらなったら…。そう家でふたりだけでだったら。

「それが、どうして僕らの家でパーティーをやることになったんだよ!」

 しかも、姉もやって来たのだ。これではふたりだけにはなれない。深夜に、なってしまうと、皆帰ることにはなっているが、その時にはしらけきっている気がしてならなかった、姉は絶対に帰らない、じゃまするのは確実だった。

“まあ、一線を越えない…”と思おうとしてきた。しかし、玉輝は次第に妹を、鏡華を抱きたい、それは単に抱きしめることではなく、彼女に喘ぎ声をださせ、精を放ちたいという、つまりは性欲が耐えがたく高まってきているのを感じていた。

「お兄ちゃんの浮気者!他の女を見つめて!」

と鏡華に責められることが度々あるが、他の女性が鏡華に見えてきて、セックスしている姿を妄想してしまっているのだ。それを何とか否定しようとしてきたが、もう抱きたい、自分のものにしたい、それを自分の中で正当化し始めていた。 

 鏡華も、兄を自分のものにしたい。兄に求められる、誰よりも求められる存在になりたい。それと同時に、肉体も兄の身体を求めている自分も感じてきていた。兄を求めている、苦しいほどに感じるようになっていた。

 そうであっても、玉輝はどこでもいい、鏡華を押し倒したいとは思っていない。鏡華は、何処でもいいから玉輝を誘うことを望んでいない。二人は感動的な、記念的な時、場所を求めていた。それで、二人だけの旅行の話しが出た時、二人とも、心の中で、“この旅行で!”と叫んでいた。心に期するものがあった。

 

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