第14話海は刺激的で 4
「ごめん。こんなゲスな男で恥ずかしいよ。」
玉輝は、一日以上自己嫌悪に苛まされていた。こんなことを言ったら、却って妹が困ることが分かってはいる。しかし、つい口に出してしまった、少しでも楽になりたいばかりに、自分に更なる怒りが湧いてきた。鏡華は、さりげなく、腕を差し入れて、彼と腕を組んだ。そして、肩に頭を預けた。
「あの時、お兄ちゃん、堂々としていたよ。真っ直ぐ見据えた、お兄ちゃんの目は頼もしかったよ、とっても。で、ね、…それで…私、…思わずね…濡れちゃったの。その後も、悶々として、体の奥が熱くなって。実の妹のくせに、とんでもない妹だね。」
玉輝は鏡華の手を握った。鏡華は、優しく握り返した。
「このままだと、止まらなくなりそうで怖いな。」
「海がいけないのよ、きっと、あまりに刺激的過ぎるから。」
「それだけならいいんだけれど。」
鏡華は、玉輝の言葉に返す言葉を探した。それを見つける前に、
「おい、なんか恋人に見えるぞ。」
と下から声が聞こえた。耳成兄妹が、それぞれの恋人と肩を組んで二人を見上げていた。
“妹みたいな彼女だな。”“お兄ちゃんみたいな彼氏さんね”と思ったが、面倒なことに成りそうなので止めた。しかし、この場をどうごまかしたらよいだろうか、二人は急いで考えた。
「コホン!」
咳払いして、からだを少し離して、二人は見つめあうように、立ち上がった。
「なかなか言えなかったけど、お前は結構美人だよ。それから、昨日、直ぐに助けにゆかれず、しかもビビってごめん。」
鏡華に玉輝が頭を下げた。
「いいのよ。兎に角、助けに来てくれてありがとう。怖かったの。」
“なかなか素直に、言い出せなかったことを今言えたというように見えるかな?”
「ああ、これですっきりした。兄さんも、変なところを気にして悩む必要なんかないんだから。じぁあね、おやすみ。」
鏡華はそう言うと背を向けて行ってしまった。取り残された玉輝は、
「心配かけてすまなかった。これで無事解決だよ。ありがとう。」
下の4人に声をかけた。
「私達は何もしてないわよ?」
耳成兄の彼女の言葉には、他の3人も同意見だという顔をしていた。
「ちょうどいい時に声をかけてくれたから、思い切って言えたんだよ。だからさ、感謝するよ。」
背を向けて、手を振りつつ屋内に入って行った。“上手く納得してくれたかな?”
この日は、最後の夜は線香花火だと言い出すのがいて、全員で線香花火をすることになった。玉輝と鏡華は、付かず離れずで一緒に線香花火をということはなかった。ただ、あと片付けで、時々顔を合わせて、瞬間見つめ合って、
“本当は一緒に線香花火、したかったよ。”私も。お兄ちゃんと見つめ合って、小さな火花の短い営みを。きゃー、恥ずかしい。”と交換していた。結局、一番遅く寝て、一番早く起きて朝食の準備ということになってしまった。しかも、なかなか寝付けなかったため、その前日も同様だったから、帰りの電車では二人とも爆睡してしまった。誰かの陰謀で、二人は隣の席だった。仲良くもたれあって、さらに寝ぼけてしまい、手をつないでしまっていた。
「ふふふ、恋人同士みたいね。」
「本当は、お互い好きなんじゃないのかな?」
「ちょっと、からかっちゃ駄目よ、いいわね!」
「素直じゃないんだよな、きっと。素直になればいいのに。」
「兄と妹というのは、そういうわけにはいかないんだよ、多分。」
「弟と姉もそうよ。」
周囲であれやこれやと言われているのに二人は気が付かず、幸せそうに爆睡を続けた。ただ、みんなは、本当は嫌いではないのに、素直になれず、ケンカしてしまう二人というふうに見てくれていたのは幸いだった。目を覚ました時は慌てたが、あくまで照れくさそうにそっぽを向いた、とりあえず。
“家に帰ったら、お兄ちゃんだけにたっぷりと水着姿を見てもらうはずだったのに”
家の玄関で鏡華がふくれた。
「姉さん、何でここにいるんだよ?」
「あら、自分の家に帰ってきてどこがいけないのかしら?」
姉の真木がしっかりついてきたのだ。二人とも、彼女が自分のアパートに帰ると思いこんでいたし、彼女もそう言っていた記憶があった。姉は、二人の不満そうな顔を無視して、家の中に入って行った。そして、
「家の中は、やっぱり暑くなっているわ!早く、クーラーをつけないと!」
と騒ぎまくる姉を見て、
「もう、お姉ちゃんの馬鹿!」
鏡華が呟いたが、彼女から漂う微かに潮の香りに、不覚にも性欲が高まってしまった玉輝は、“今日ばかりは、姉さんに邪魔してもらわないと、自分が止まらなくなりそうだな。”と感じた。それでも鏡華には、
「仕方がないよ。もうしばらく我慢しよう。」
と言って抱きしめた。
数日後、鏡華の水着姿をじっくり見ることになり、心から、“鏡華が一番魅力的だな。”と思い、そう口にだし、欲情を感じつつも、自分を抑えられた玉輝だった。その前に、もう既に姉の前では隠さなくなった二人の日常の中で、抑えることができたのも、何はともあれ姉が、見ているという事実に助けられたのだと思った。
「自分が、露出狂でなくてよかったよ。」
心の中で呟いた。それでも、同じベットで手をつないで寝ることは止めていなかったが。
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