第12話海は刺激的で 2
「明日の昼はバーベキューだ。」
というわけで、その夜はカレーということになっていた。作る中心は初瀬川兄妹で、淡々と進んでいた。何故か、その初瀬川兄妹が、ものすごく口数が少なく、皆も少し遠慮気味になってしまった。カレーやサラダの味を称賛はしても、立役者の二人が暗くては話が進まなかった。その中で真木が、皆を盛り上げたので、何とか和気あいあいのうちに夜がふけた。
“一つ貸しだからね!”と玉輝に目で告げていた。
夜、眠れない玉輝はコテージを出た。
「初瀬川?どうしたの?」
白瓜だった。スリムで、中背のショートカットの髪の、少しボーイティシュだが、極めて女性的な体型を感じる美人だ。長い付き合いであり、妹もよく知っている。
「眠れないの?昼間あんなことがあったから?でも、しっかり妹さんを助けたじゃない。」
“元気出しなさいよ。”と言うように、背中を叩いた。
「結果的にはね。でも、震えて、怖かった、びびっていたんだ。」
“情けないよ。”という表情だった。
「あんたは、昔から真面目すぎるのよ。完璧なヒーローなんていないわよ。」
そう言うと、優しく腕を絡めてきた。“よせよ。”とか言って、すかさず外そうとした時、
「初瀬川と白瓜じゃないか?」
鏡華と黒田が立っていた。二人は肩が触れ合うくらいに並んで立っていた。彼女も眠れないため外に出たところに、彼と会ったのである。兄と共に長い付き合いの相手だけに、つい昼間のことで話しをしてしまったのだ。
「お兄ちゃんに迷惑をかけちゃった。」
「あいつは、そんなこと思っていないよ。」
4人は互いを、見つめ合った。
「一緒に、4人で夜空を見ましょう。」
「それが、いいんじゃない。」
白瓜と黒田が勝手に合意して、初瀬川兄妹は互いに別の相手と並んで歩くことになった。互いに気にはなったが、今日はそれが何時もと違うようなど気がして、そのまま流されていた。
「何か、ダブルデートみたいだな。」
「何を言っているのよ、もう。」
とりとめない話をしながら砂浜を歩いているうちに、黒田達がそんなことを言い出した。二人とも満更ではない表情だった。流石に初瀬川兄妹は慌てた。何か言おうてしたとき、女の苦しそうな、そうでないような声が聞こえてきた。その声の方向に視線が向くのは、自然の流れというか、人間の性というかである。さらに、見えないとその方向に進むというのも当然の成り行きである。崖になっている下に小さな砂浜が、月明かりで照らされてよく見えた。二人の男女がいた。二人とも裸で、女が岩に両手をついて、下半身を突き出し、男が下半身をそこに当て、女の腰を両手でつかんでいる。そして、二人は激しく動いていた。女の声が、苦しい声ではなく喘ぎ声であることが分かった。4人が岩陰に身を隠したのはもちろんである。4人とも息をのみ、唾をゴクリと飲み込んで凝視してしまった。
「これじゃ覗きじゃない?」
鏡華が震えながら言った。玉輝が興奮で震えながらも、
「覗きは犯罪だよ。それに彼らに悪いし、悪いことに巻き込まれるかもしれないから、ここはそっと帰ろう。」
と言い出した。
「そうよね。帰りましょう、それがいいわ。」
「え?」
「は?」
という顔をする二人を尻目に、玉輝と鏡華は、ギクシャクとしながら、手をつないで、これまたギクシャクとまるでギャグのような、ロボットのような動きで歩き出した。二人は、人前ではやってはいけない行動を取っていることが分からない状態だった。
「二人の言うとおりね、確かに。」
「僕達もいくか。」
黒田と白瓜も、初瀬川兄妹に続いた。ギクシャクと歩く二人の後ろで、
「二人は、本当は仲がいいんじゃないか?」
「仲が悪くなったのは、中学になってからだものね。素直じゃないのよ、二人とも、きっと。そうだ、あんた振られたんじゃない?」
「人のこといえるか。」
二人とも、初瀬川兄妹とは長い付き合いである。
「何言っているのよ。でも、可哀想なあんたのために、手をつないであげるわよ。」
右手を差し出した。少し震えて、恥ずかしそうではあった。
「お言葉に甘えて、ボランティアしてやるよ。」
ちょっと緊張しながら、左手で彼女の差し出した右手を握った。
「何馬鹿なこと言っているのよ。私は年下好みじゃないわよ。」
「俺だって、年上は好きじゃないよ。」
白瓜は、黒田よりも一月誕生日が早かった。
「気の強い女は苦手だ。」
「頼もしい男が好みなの、私は!」
そう毒づきながらも、互いに手をしっかり握り合って歩いていく。
「付き合ってみる?」
「俺は、空いているから、支障しはないよ。」
「もっと気の利いた言葉を言いなさいよ。だから、彼女ができないのよ。」
「彼氏のいない女に言われたくないよ。」
恥ずかしそうに、二人は顔を互いに別方向に向けていた。初瀬川兄妹はそのままギクシャク歩きながら、一緒の布団に潜り込んで、そのまま眠ってしまった。
目を覚まして、寝ぼけてつないだ手を握りしめあい、お互いの顔を、眺めあっているうちに、自分達が何処にいるのか思い出し、慌てて飛び起きた。幸いなことに誰も目を覚ましていなかった。そのまま、静かに、外へ出て行った。朝日が海面から顔を出しかけていた。
「誰かが見てるかもしれないから。」
玉輝が小声で囁くと、鏡華は頷いて、
「せっかくの日の出を兄貴と見ないといけないのよ。」
「それは、こっちの台詞だ。」
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