第9話お姉ちゃんは一応負けてあげるよ
「二人の作る朝食は、やっぱり美味しいわ。」
真木は、先ほどのことは忘れたかのように、二人が用意した朝食をガツガツと食べた。
「普通の目玉焼きとトーストとポタージュスープだよ。」
「野菜やハムがちゃんと入っていて、焼き具合もちょうど良くて。みんなそうよ。ヨーグルトもお手製でしょう?おいしいわよ~。」
と姉の真木が褒めているのを、半分聴きながら、二人は仲良く話し、ヨーグルトに何を入れるだの、紅茶を追加するかとか、互いにサービスしあって、それがさも嬉しそうにやっている。真木は、すっかり呆れて、
「あんたら、わざと見せつけようとして、やっているんじやないでしょうね?」
睨みつけた。
「は?」
「え?」
意外だ、という表情をした。二人にとっては、何時もより控えめにしている、姉が目の前にいるから、という認識だったのだが。それを言うわけにもいかないと、とっさに思い、
「もう姉さんの前で、お芝居する必要もないし。」
と玉輝が答えれば、
「だから何時も通りに。」
これを聞いて、また頬を膨らませて、
「私は空気みたいなものというわけ?いいわよ。2度寝してくるわね。」
わざと足音を高く立てて、出て行った。少し呆れるとともにほって安心した二人は、何時もの日常に帰った。夕方、ドタバタと姉の部屋で大きな音がし、しばらくして音が聞こえなくなったため、様子を見に行くと、二人の前には、乱雑に本や服が散らかった中で、本を読みふけっている姉の姿があった。
「何やっているだよ、姉さん?」
「片付けないといけない、かな~と思ったから…」
それだけ聞いて、玉輝はだいたいの事情を理解した。
「もう、お姉ちゃんたら。」
鏡華も呆れ顔だったが、
「片づけるの手伝うよ。」
と言う玉輝に頷いて同意した。そんな面倒ことも二人でやると楽しいという感じが、ひしひし伝わってきて、真木は渋々二人に従って、自分の部屋の片付けを再開した。
「今晩は、鰻の蒲焼き?ラッキー。」
夕食で真木は大声を出した。炊飯器を開けると、大きい鰻の蒲焼きがご飯の上に置かれていた。
「半額セールしていたから。明日の予定で、今日はマグロの醤油漬けと味噌漬け、これも半額程度していた刺身を買ったやつで、こっちが今日の夕食の予定だったけど、今日はお姉ちゃんが来たからね。」
「鏡華は、料理が上手いから、何でも美味しいよ。」
「何言っているのよ、お兄ちゃんたら。大部分はお兄ちゃんがつくっているのに。」
互いに褒め合って、楽しそうにしている二人を見て、何とかへこませたいと真木は思ったが、
「父さんも母さんも、今だにいちゃいちゃして恥ずかしいけど、あなた達も同じだね。あ、それがいけないんだからね!玉輝は、受験生なんだから、こんなことしていたらダメよ。」
玉輝は、そんな姉の攻撃もどこ吹く風で、平然とした顔で、
「鏡華といると勉強がはかどるんだ。」
ここは、攻めきれないと思って、食事に集中することにした。
「美味しかった。まともな食事は、久しぶり~!」
鏡華が少し怒った顔で、
「お姉ちゃん、いつもどういう生活しているの?お父さんなんか、男の一人暮らしで、ちゃんとやっているわよ。」
「お父さんは、玉輝と鏡華の父親だもの。」
平然としている真木に、
「論理が反対だよ。最低でも、ご飯は炊いた方がいいよ。今日、収穫した野菜でサラダをつくっておくから、明日持って行ってくれよ。」
「お父さんのいない間も、しっかり家庭菜園をやってるんだ。」
「二人でね。」
後片付け、食器洗い、その他、そして勉強やら、二人が仲良くやって射る間、鏡華は一人ゲームをやっていた。一人暮らしで、家事はかなり適当だが、勉強熱心でそんなに遊んではいない、彼女は実は。ゲームも、家に帰ってきた時はやるが、それ以外ではゲーム研究としてやるだけだ、少しだけ。
「お姉ちゃん。お風呂沸いたわよ。」
「今、ゲームがいいところ。先に入って。」
画面と手の動きに集中している真木に、鏡華は、
「もうお姉ちゃんたら。じゃあ、先に入るね。」
「いいよ。ゆっくり暖まって。」
と適当な返事をした直後、廊下から、
「お姉ちゃん、まだ入らないんだって。先に二人で入ろう。」
「今行くよ。」
あまりに、当然、自然な調子だったので、真木が理解するまでかなり時間がかかった。
「何~!」
急いで上下の部屋着を脱ぎ捨て、あわてて下の下着を脱ぐ時に転びかけた。浴室の戸を乱暴に開け、
「こら~!何やっているのよ!」
裸で、胸どころか、下も隠さず仁王立ちすると姉を見て、二人はは理解ができず、
「は?」
「え?」
と玉輝が鏡華の背を洗っているという姿で固まってしまった。
「は!」
鏡華の反応が少し早かった。
「お兄ちゃん!見ちゃだめ~!」
と兄の両目を両手でふさいだ。玉輝は、塞がれたまま、
「姉さん!何、裸で入ってくるんだよ。」
当然のことをして、言っているかのような反応に自分が悪いと一瞬思ってしまったが、直ぐに頭を切り替えて、
「おかしいのは、あなた方でしょう!兄と妹だからって、もう一緒に入るのは異常でしょうが。」
「別にいやらしいことなんかしていないもの。ただ、二人で、ちゃんとお風呂で洗って、温まっているだけだもん。お姉ちゃんが、考えていることなんかしていないもん!」
鏡華がまくし立てた。真木は、立ったまま固まってしまった。
「だいたい、姉さんが裸で飛び込んでくるのだっておかしいだろう。」
と玉輝が言った時、鏡華の手が外れ、姉の裸身を正面から見てしまった。
「あ!お兄ちゃんの浮気者!」
「な、な、なんでだよ。」
二人の痴話げんかが続いていると、
「クシュン!」
真木がくしゃみをして、ぶるっと体を震わせた。
「開けっ放しで、突っ立っていたら風邪ひくよ。閉めて入れよ、姉さん。」
「私が背中を洗ってあげるから、お兄ちゃんはお湯に入って。」
”先手を打たれた。“と思ったものの、結構冷えてしまったので、大人しく従うことにした。
「お姉ちゃんは、本当にスタイルがいいし、お肌もすべすべしてるね。」
「何言ってるの、あなたには負けるわよ。」
鏡華の言葉の中に“お兄ちゃんの好みは私だけど。”が隠れているような気がしたが、真木は調子を合わせた。鏡華は、鏡華で“お兄ちゃん、大丈夫かな?”、チラチラと二人に視線を向ける玉輝を睨んだ。慌てて視線をずらした玉輝は、“本当に対照的だな、どっちも美人だけど。“真木はやや小柄で可愛いという感じの美人だが、鏡華はすらっとしつつ、魅惑的体型で、清楚でかつ活動的な、かつ…、あれ、鏡華の方のほめ言葉が続き過ぎ?”自分自身で呆れてしまった。”まあ、それだけ鏡華が魅力的なんだよな。“自分自身に言い訳をした。ふと気がつくと、姉が体を洗い終えかかっている。
「そろそろのぼせてきたから、僕はでるよ。」
もちろん、用心深く、二人に背を向けてながら湯から上がり、浴室の外に出た。
「あら、せっかく一緒に入ってあげようと思ったのに。」
真木が冗談ぽく背中になげかけたが、
「お兄ちゃん!早く出て!」
鏡華の声は厳しかった。
その後は、二人が寝る前の勉強をしている脇でスマホをいじり、
「あ!お父さん、無料投稿サイトの連載を又増やしたわ。大して読者もいないのにな。」
と時おり声をあげながら、二人をじっと監視していた。
次の日、お昼少し前に、真木は帰っていった。
「お昼くらい食べて行ったら。」
二人は、半ば本気で言った。真木は、意地悪そうな表情で、二人を指さして、
「今回は、私の負けを認めてあげる。でもね、許されないんだからね!じぁあね!」
わざとドアを乱暴にしめて出て行った。
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