第8話お姉ちゃんには邪魔させない

「あんた達ね。」

 寒いため、裸に布団に包まるようになりながら、真木は延々と兄妹の仲としていきすぎていると責め立てた。二人は、取りあえずベッドの上で、並んで正座して神妙に聞いていた。

「だから、こういうことはダメー。玉輝は私と、鏡華は他のいい人を見つけて。」

と言って、玉輝の腕を取り、自分の胸の狭間にはさんだ。

「なに、やっているのよ!お姉ちゃん!」

 鏡華が、慌てて、かつ、乱暴に兄の腕を引き離す。

「だいたい、姉さんとだって同じだろう!」

 玉輝もそう言って腕を引っ込めた。鏡華は、兄の言葉に大きく首を何度も縦に振った。頬を膨らまして真木は、そんな二人を睨みつけた。

「どうりでおかしいと思ったわ。中学に入る頃まで、仲が良すぎるくらいで、友達を作るより二人でくっついている方を選んでいたあなた方が、いつの間にか、仲が悪くなったんだものね。ずっとその三文芝居に騙されていたってわけね、心配して損した。」

 あ~あ、という表情になって、

「ひど~い。私だけ、除け者だったわけだ。」

 今度はふて腐れるように、プイッと横を向いた。二人には見えないように、小さくほくそ笑みつつ。少し慌てた二人は、

「初めは、このままではいけないと思って、二人とも本気で無視しようと決めたんだ。」

「そうよ。でも、駄目だったのよ。どうしても、お兄ちゃんが好きだったから。」

「僕が、鏡華が好きという気持を我慢できなかったんだ。それに、二人とも、その、なんだ、一線は越えていないし…。」

「そ、そ、清い関係だから…。」

 自分で言った言葉に恥ずかしくなって、真っ赤になってうつむく二人に、真木はわざとまだふてくされている風に、

「本当に、お仲がよろしいこと。どうせ、お姉ちゃんはお邪魔虫ですよ~。どうせ、お姉ちゃんなんか嫌いなんでしょう?」

 二人の困った顔を面白がりつつ、それを悟られまい、もう一押しと哀しげな表情を玉輝に向けた。 

「姉さんを嫌いなはずないだろう。姉さんのことは、勿論好きだよ。」

 玉輝がそう言うと、鏡華が続けようとするのに先んじて、

「嬉しい。玉輝~。」

 いきなり彼の手を取って、自分の乳房に導いた。慌てて、鏡華がそれを引き離す。

「いい加減にしてよ、お姉ちゃん!」

「なによ。玉輝に選んでもらいましょう。自信がない?玉輝だって、大人の美人のお姉さんに教えてもらいたいよね?」

と言って、自分の裸体を惜しげもなくさらした。姉の挑発するような視線に頭にきた鏡華がネグリジェの前をはだけようとした時、玉輝が彼女を包み込むように抱きしめた。鏡華は、体が動かなくなった。

「僕は鏡華が好きだ。姉さんは好きだよ。部屋を片付けられないし、自炊もしない、気まぐれで、勝手で、行き当たりばったりで、面倒を言いつけるばかりだけど、頭はいいし、美人だし、尊敬もしているし、大好きだ。でも、あくまでも姉としてだよ。僕は、鏡華が妹として、かつ、妹以上の存在として、大好きなんだ。鏡華は僕の特別なんだ。」

 自分の言葉に玉輝が半ば酔っているのを聴きながら、鏡華はその言葉にうっとりとしていた。また、頬を膨らませて真木は、

「そういう時は、どちらも選べないと迷うところでしょうが。全く子供なんだから。」

 見下すように言う姉に対しては玉輝は、

「勝手なルールを決めないでくれよ。大体、それはマンガやアニメの話じゃないか?それに、それじゃ、姉さんはあちこちで男をつまみ食いしているビッチ女になるじゃないか。姉さんは、そんな女じゃないだろう?」

「私だって、…どうせキスもしたこともない…。」

しどろもどろについ弁明というか、告白してしまって、思わずしまったと思った。意外だという表情と少し優越感を感じている表情と同情がないまぜになって二人が見ていることに気がついた。ただそれは、あくまで、真木がそう思っただけなのだが。

「いいわよ。そんなこと言うなら、2人の関係をみんなに言っちゃうかもよ~。」

 意地悪そうな調子で言った。鏡華が青ざめたが、玉輝はひどく冷静な表情で、

「いいよ。姉さんがそうしたければそうしたらいい。」

「え?」

 鏡華も、真木もキョトンしてしまった。

「そうなったら、鏡華と行き着くところまでいくだけだから。」

 あくまで冷静な声だった。鏡華は、少し悲痛な表情ながらも、嬉しそうでいて、思い詰めた感じで兄を見上げた。二人は、目と目で会話し始めていた。

 真木は、言葉に詰まって、何とか反撃しようと必死に考えているうちに、それがなかなか出てこないうちに、お腹が大きく鳴った。

「お腹が減った~。朝御飯~。」

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