第6話お芝居が終わった後。

 食堂に入り、窓のシャターを下ろした後、二人は向かいあって立っていた。表情は引き攣ったままだ。

「も、…もう良いですわよね。クソお兄様?」

「そうですね、愛しいか、…粕妹様。いつもの僕達に戻りましょうか。」

 二人は、落ち着こうとするように小さく深呼吸した。お互いに肯きあってから、次の瞬間、

「おに~ちゃ~ん!」

「鏡華~!」

抱きしめ合っていた。

「お兄ちゃん!ごめんなさい!散々悪口言っても!少しもそんなこと思っていないのよ。お兄ちゃんは、とっても素敵で、かっこ良くて…。」

「僕こそごめん。こんな素晴らし妹を、女性をブスだ、粕だと悪口三昧して、無視して。本当は、本当に鏡華が大好きなんだよ。」

 二人は、強く抱きしめ合って、互いに、クンクン臭いをかぎ、なめ合い始めた。

「お兄ちゃんの臭い、エキス、不足してたんだよ~。」

「鏡華の香り~。美味しい鏡華~。」

 そして、一旦その行為を止めて、お互いの顔を見つめる。

「素敵!」

「可愛い!」

 思いきり強く唇を押しつけあい、吸いあい。舌を絡ませあい、さらに強く抱きしめ合った。

”痛い、息が苦しい、お兄ちゃん。でも、もっと強く抱きしめて、唇を吸って~!“

“こんなに強くしたら鏡華が苦しがるかも。でも、とめられない~!鏡華の力、どこにこんな力が。こんなに愛してくれて。”

 何度も息苦しくなっては、唇を離し、また、どちらともなく唇を重ねることを繰り返した。何度も、何度も。

「そ、そろそろ食事の支度を始めようか?」

「そ、そうだね、お兄ちゃん。お腹も減ってきたもんね。」

 2人は荒い息遣いをしながら言ったが、お互い相手を放すまでには、もう少し時間がかかった。

「お兄ちゃん。お皿取って。」

「サラダが出来たぞ。それから、味噌汁の味見してくれ。」

「ちょうど良い味つけよ。」

「父さんの買ってきてくれた出汁と味噌がよかったんだよ。」

「そんなことないよ。お兄ちゃんの料理が上手いのよ。」

「何言ってるんだ。鏡華のソテーは、美味しいよ。」

 二人は、うれしそうに仲良く、じゃれ合いながら、夕食の準備をした。

「お兄ちゃん!あ~ん!」

「鏡華!あ~ん!」

「お父ちゃん達には悪いけど、二人きりの食事が一番美味しいね。」

「ああ、鏡華のためだけの料理に集中できるし。」

 食事の最中も、その後片づけも、二人は楽しそうに、少しも離れることなく、一緒にやった。勉強でさえ、向かいあった机に座り、真面目に勉強をしてはいるものの、時折、うっとりとした目で相手を見つめた。

 玉輝が、風呂掃除をしている間に、鏡華はスイーパーで軽く床掃除。風呂に湯を張り始めると、服を脱ぎ、

「お兄ちゃん。痛いよ。」

「お前、締めすぎだよ。」

 古武道の絞め技などの復習などをして汗を流してから、二人はそのまま風呂に直行する。自分の体は自分で洗うが、浴槽には二人で、当然のようにはいる。両親の趣味で浴槽が、大人二人分楽に入れるようになっている。ちなみに、両親は今だに、二人で一緒に風呂に入っている。

「お兄ちゃん。私って魅力ないかな?」

「何言ってるんだ。そんなことを他の女子が聴いたら、皮肉にしか聞こえないぞ。」

「だって、胸が大きくないしい、お兄ちゃんも、男の人は巨乳がいいんでしょ?やっぱり。」

 ちょっと恨めしそうに、疑わしそうに言った。目の前の妹の裸体を見ながら、ほとんどが湯の下だが、

「そもそも、鏡華は大きいほうだと思うし、大体マンガやアニメのは巨乳過ぎてグロテスクだと思うよ、少なくとも僕は。鏡華は、素晴らしく魅力的だよ。」

 彼女は嬉しそうに微笑だものの、

「本当に?男として、異性として、私が魅力的だと見てる?」

「あたり前じゃないか。現に…。」

「え?」

「それは聞かないでくれ、武士の情けで。」

 いかにも情けない表情で言う彼に、彼女は声を立てて笑った。彼もそれに釣られて吹き出した。

「お兄ちゃん。私の胸。確かめていいのよ。本当に形がよくて、弾力があるか。」

 言い終わってから、カアーと顔を真っ赤にさせた。玉輝も顔を真っ赤にさせて、しばらく無言だったが、

「それをしたら、もう止まらなくなりそうだから。だって、僕達、…。」

「そうよね。実の兄妹だもんね。」

二人は、無言になって下をむいた。少し経ってから、

「そろそろあがろうか。のぼせそうだし。」

「そうだね、お兄ちゃん。」

静かに、ぎくしゃくしながらいって、二人は浴槽から立ち上がった。

「今日は、お兄様のベットで添い寝しよう。」

「うん。1週間ぶりだな。」

 一つのベットに二人で寝るのは流石に窮屈だが、互いのベットをくっつけてしまうと、急に部屋に入って来られたら、弁解ができなくなるし、事前に予想していたとしても、いちいち動かしていると面倒くさい。そのため、狭いのを我慢して順番に一つのベットで寝ることにしていた。ただし、二人にとっては窮屈さなど苦痛どころか、快楽ですらあったのだが。二人は、ベットの上で手を握りあって、その感触をしっかり味わいながら、

「おやすみなさい、お兄さん。愛してもいるのは私だけだよね。」

「僕には、鏡華しか見えないよ。でも、鏡華が別の男を好きになったら。」 

「お兄ちゃんの焼き餅やき!」

 そういいながら、さらにしっかりと手を握りあって二人は眠りに落ち込んだ。

 翌日、玄関で二人は何回も唇を重ねてから、並んで深呼吸をしてから、ドアを開けた。

「クソ兄貴。早く行くわよ。私まで遅刻にさせないでよね。」

「お前は口より、足を動かせ。行くぞ、馬鹿妹。」

 二人は、心の中で必死に、“ごめんね!”“ごめん!”と謝罪した。顔は、あくまでも「フン」と言った表情で歩きはじめた。 

 彼らの外での、平常に戻ったのだった。仲の悪い初瀬川兄妹に。  

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