第5話両親が去った、お芝居は終わり
「ご両親は今日、行ってしまうのか?」
校庭で、黒田が話しかけてきた。初瀬川兄は、少し寂しそうに、少しホッとするような表情だった。
「宮仕えの辛いところだよ。でも、いい大人がイチャイチャしているのを見せつけられる子供も大変だぞ。」
いかにも霹靂しているようだった。
「まあ、あのお母さんなら、お父さんがそうなっても分かるかな。」
黒田は意味ありげに笑った。二人の100㍍走の順番になったので会話は中断された。
「お兄さん。結構速いわね。」
「まあ、クソ兄貴は、頭は悪くないし、運動神経も悪くはないわね。でもね、とにかく、嫌いなものは嫌いなのよ。」
鏡華はそれでも兄のことは良く言わなかった。
「でも、そんなことばかりいってるから、誤解されたんじゃない?」
三輪の指摘に、思わず頷くしかなかった。目の回りを腫れ上がらせて登校した日、DVだろう、と当時の担任から呼び出されたことを言われたのだ。彼女は被害者、兄は加害者とされて、彼も目の周囲を腫れ上がっていたのだが、担任はそれがみえないかのように兄を責め立てた。階段でバランスを崩した彼女を助けようとした結果で彼女もそのことを説明したのだが、一向に聞き入れられなかった。彼らの両親にまで連絡された。二人の両親は、二人の言い分を信じてくれたが、その後しきりに心配するのは、それが影響している。
「でもさ、DVする男は許せない、何て言っていて、それが原因で離婚していた上に、交際している彼女にデートDVしていたんだから、酷いよね。」
畝妹が話しに割って入った。それが明るみになって学校を辞めていってくれたので、ことは収まってくれた。彼とともに急先鋒だった女子教師もほどなくして辞めてくれたが、噂では彼の二股彼女であり、ご丁寧なことに彼女にもデートDVしていたという。
「だから、学校でも、そんなに嫌っている素振りは抑えているでしょう?」
「え!あれで?」
皆が顔を見合わせた。仕方がないと言うことになり、
「まあそれは置いておくこととして、元旦のお詣りを、合同で行く案はどう?」
「別にいいけど、あの馬鹿だって受験生なんだから、一応。」
「お前ら、俺達は受験者なんだぞ。」
帰り際、同じ話題を初瀬川兄もふられていた。
「そのくらいの息休めは必要だって。最近の予備校もそういう方針だってさ。」
話しは初瀬川兄妹以外でかなり進んでいるらしい。そのことが何となく分かり、初瀬川兄は反論を止めた。
「ところで、お姉さんは、あれからどうしたんだ?」
「遅くまで両親と酒を飲んで、両親とはちがって遅くまで寝ていて、夕方ごろ戻って行った。」
両親はたまにしか呑まないが、結構強い。酒の酒類にこだわる、2人して。姉はたっぷりと、酒の呑み方からウンチクまでたっぷり言われて、かなり閉口したらしい。
その夜、両親は名残惜しそうに、心配そうに、単身赴任先に帰るため、家を出た。
初瀬川兄妹は、玄関で並んで見送った。
「そろそろいいんじゃありませんこと、お兄様?」
「父上は結構忘れるものだと言って戻ったくることがあるから、もう少し待った方が、いいのではないでしょうか?」
10分程二人はそのまま立っていた。
「もうそろそろ、お芝居はやめにしない?」
鏡華の笑顔がぴくぴくひきつっていた。
「もうそろそろ我慢できないんだけど。」
「奇遇だな。ぼくもこれ以上お芝居はできそうもなくなってきたところだ。ここではなんだから、食堂に行こうか。お芝居の終わりはそこで。」
玉輝の顔もひくひくとひきってきた。
「そうですわね。い、いきましょうか?」
「ああ、い、行こうか。食事の支度もしないといけないですからね。」
二人はギクシャクした声で同意して、やはりギクシャクとした動きで歩き始めた。
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