第4話姉さんのいる前では仲は悪くない

「お前ら、何を探しているんだ?生徒会長まで。」

 食事が終わって、二人の部屋に入った面々の何人かはキョロキョロと何かを探し始めた。二人の部屋はアコーディオン型の仕切りでひとつにも、二つにも分けられる形式のものだった。

「いや~、なんというか。」

「ほら、男の子なら、必ずというかで、絶対必ずある、でも隠しているとかの。」

「弟はこの辺に。」

「兄さんなら、この辺だけど。何処だと思う?」

「知るか!それより、どうして知っているんだよ?」

「お兄さんが、何処に隠しているいるか知らない、鏡華?」

「う~ん。何処かしらね?」

 姉まで加わっての捜索に、二人は唖然とした。

「馬鹿兄貴が、どう見られているか、よ~く分かったわ。本当に、妹として恥ずかしいわ。」

 ここぞとばかり罵ってきた。

「別に、誰も玉輝を悪く思っていないわよ。男の子として当然の宝物だもの、ねえ玉輝?」

 姉の弁護に、さらに不快な表情になった、全く喜べないと。すると、姉の顔が鏡華の方を向いた。チラッと兄の方を見てから、ゆっくりと指さした。その先には、本棚、諸子百家、ソクラテス、カント、マルクス、仏教、キリスト教、安藤昌益、本居宣長等小難しい本の中に探しているものがあった。

「へえ、初瀬川はソフトなやつがお好みか。」

「でも何でこんなところに。そりゃ、こんなに堂々とおいてあるとは思わなかったけど。」

 みんなの目が玉輝の方に向けられた。彼は、大きな溜息をついた。

「別に恥ずかしいと思っていない。だから、隠す必要はないということだよ。」

 引く、いう表情を何かが見せた。

「本当にデリカシーに欠けたドスケベ、馬鹿兄貴よ。」

「フン!色気の欠片もない、クソ妹といたら、こうしたものなしには体が持たない。」

「なんですって~。」

 また睨み合いを始めたので、慌てて、

「でも、机は並べているけど、仲が良さそうね。」

机が部屋の中央に机が向かい合わせに並べてあった。

「それは、勉強を教えてもらうことがけっこうあるから。この馬鹿、教えることは、割とうまいのよ。」

「お兄さん。優しいんだ。」

「仕方なしにだよ。この馬鹿が、受験を失敗すると、僕も両親困るからだよ。」

「フン!」

 しかし、こういう部屋で過ごしている二人が仲が悪いとは思えないというのが、みんなの印象だった。この部屋だと、閉め切ることは一応はできるが、音はダダ漏れだし、においだって防げはしない。

「他の部屋はなかったのかい?」

 誰かが、当然の疑問詞を口に従っ。二人は、姉の方を意味ありげに見た。

「それは私自身が使っているんだよね。だけどね。」

 皆の視線が集中するのを感じて、慌てて

「でもね、そもそもはこの二人が、このままでいいって言ったんだよ。」

 更に、

「2人目とも小学生の頃は、仲がと~てもよかったんだよ~。いつも一緒で、手もつないでいてさ~。」

 と付け加え、それに白瓜達が大きくうなづくをみて、皆の視線の方向が変わった。

「小学校の頃の話だよ。あの頃は何も分からなかったから。」

「こんなダメ男になるなんて思わなかったのよ。」

「昔は、優しい女の子だったのに。こんながさつな女になるとは思ってもみなかった。」

「何てことを言うのよ!このクソ兄貴。」

「それはこっちのセリフだ。馬鹿妹。」

 睨み合いを、また始めた二人に、

「二人とも、意地を張らない、張らない。私の前でケンカはしない。仲良くしなさいよ~。」

間に姉が割って入った。

「分かったよ、姉さん。悪かった、鏡華。」

「私自身こそ、言い過ぎた、ごめんなさい。」

 二人は、思いのほか素直に互いに謝った。“お姉さんの前でも、そんなに仲の悪さは見せないのか。”と一応皆が納得した。

「ところで、これは誰だろうか?」

 畝傍兄がゴホンと咳払いをしてから、スマホの画像をかざした。皆が一斉に集まった。そこには、仲良さそうに、手をつなぐ男女が映っていた。

「ハッセー兄妹に似ていると思うのだが。」

 誰もがそう思った。二人の反応に皆の視線が集まった。ふー、軽く息をはいてから、吸って、落ち着いた表情を崩すことなく、

「男は僕だ。」

「手をつないでいるのは私よ。」

 あっさりと認めた。畝傍をはじめ、少々ガッカリしてしまった。それでも、

「二人は仲がいいのでは?それとも、外では不仲を隠すための練習?」

とアナウンサーの質問の仕草をしながら、突っ込んでみた。

「そうは見えないけど。」

 白瓜が助け船を出す。

「そうではないよ。」

 予想外の反応に少しガッカリするとともに、次を期待した。

「で?」

「古本市でほしかったものが手に入ってテンションがあがったのと。」

「と?」

 その後を、鏡華が引き継いだ。

「姉さんのアパートの部屋の掃除と食材の準備が終わった開放感から、やたらにハイテンションになったの。」

 チラっと姉の方を見た。玉輝の方向は、姉とは逆方向を不自然に顔を向けていた。

「何よ!それでは、私の部屋が酷く汚い状態にあるみたいじゃないの!ひどすぎない?」

 黒だけでなく、白瓜も、思い当たるという顔になっているのを見て、視線があつまった。

「何よ、そのイメージはみんな!二人とも黙っていないで、違うって言いなさいよ!」

 弟と妹の顔は、嘘は言えないから、というものだった。

 

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