第3話お父さん、お母さん。私達は仲は悪くないよ

「おじさん、おばさん。お久しぶりです。」

 黒田と白瓜が真っ先に挨拶をした。初瀬川兄妹の両親は、並んで玄関から入ると、予想もしていない大人数の歓迎に、一瞬驚いて声が出なかった。二人は別ルートで帰って来るのだが、連絡しあって合流して家路についたのだ。そのことは、これまた、きめ細かく子供達の携帯に連絡を入れていたから、黒田達も待ち構えていたのだ。

“こういうところは、二人と同じだ。”と誰もが思った。

「黒田君に、白瓜さん。他は、…息子達のお友達か。」

「お父さん、お母さん。食事の準備は出来ているわよ。」

「姉さんは遅くなるって連絡があったから、先に食べ始めよう。」

 二人がダイニングから、顔だけ出して両親に呼びかけた。 

「すぐ着替えて来るから。挨拶はそれからね。また、後で。」

 初瀬川母がそう言って、初瀬川父と一緒に玄関からあがり、階段を上がっていった。二人は、背の高いのは父親似だが、母親似の美形というところだった。

「さあさあ、みんなも席につけよ。とは言っても、30分ほどは待つことになるけど。」

「全く、何をしているんだか。」

 二人はため息をついたが、妙にに息が合っている。

「まあ、なんだ。」

「色々あるだろう、大人は。」

「お父さん、お母さん。離ればなれだもんね。」

 人数が、10人以上になり、ダイニングの椅子、テーブルでは足りないため、リビングにいくつかテーブルを持ち込んで、座布団を総動員して、全員分を確保している。

 初瀬川兄妹の言った通り、30分以上経過してから、両親は階段を下りてきた。

「まるで、私達がお客さんだな。」

「お父さん。ごめん。こいつら、どうしても言って、ついてきて。」

「いいのよ。親としても、子供達のお友達には興味があるから。」

「おじさん、おばさん。お勤め、ご苦労さまでした。」

「あんた。それじゃ、刑務所から出てきたようじゃない。」

「黒と白。夫婦漫才してるんじゃないわよ。」

「え!」

「何!」

 大きな笑い声が上がった。それが収まると、初瀬川兄妹が全員を紹介、食事が始まった。

「ところで、この中に付き合っている人はいるの?」

 初瀬川母が、二人の方を見て、いたずらっぽい視線を向けて尋ねた。二人とも真っ赤になって、「残念ながら、好きだと言ってくれる彼女はいないよ。」

「もう!お母さんたら、みんなに失礼じゃない。いるわけないでしょう!」

「みんな、いい友達!」

 二人は、声を合わせて否定した。

「将来の義理の息子、娘候補がいたら、知っておきたいと思っただけよお~。」

と初瀬川母は少し膨れて見せた。

「清い交際なら、歓迎よ!」

 悪戯っぽく微笑む、初瀬川母。

 皆戸惑いつつ、皆は頷いた。それを見て、 

「もう、お母さんたら。」

「よしてくれよ。」

 渋い表情で抗議した。

「お姉ちゃんは、結構男女交際していたからな。今は、どうか分からないが。それはさておき。」

と初瀬川父が真面目な表情になって何かを言いかけた時、

「帰ったわよ。お腹減った!」

 玄関から、大きな、女性の声がした。玉輝が立ち上がったが、ドタドタという足音はリビングの前に来て、ドアが開けられ、小柄なショートカットの美人が入ってきた。

「真木姉さん。お帰り。」

 玉輝と鏡華が迎えたが、

「ああ、もう始まっているの!私の分は~?」

「真木!お行儀が悪いぞ!」

 父親は窘めつつも、何時ものことらしく、仕方がないという表情だった。

「今、姉さんの分を用意するから。」

 玉輝達が台所に行った。

 「早くね!わが弟妹の料理は最高だから!」

「それだと私の料理は不味いように聞こえない?」 

「だって~、お母さんの料理はずっと~食べる機会がなかったから、忘れちゃったもん。」

「酷いわ。子供の頃は、お母さんの料理が美味しい、美味しいと言ってくれていたのに。」

 初瀬川母はわざとらしい拗ねたポーズをしたが、二人とも、目は笑っていた。

「二人の料理は、どんどん美味しくなっているからね。私も自炊しているが、完全に負けているよ。」

「おじさん。自炊しているんですか?」

「どんなのを作っているんですか?」

「カレーライス、目玉焼き、天ぷら、唐揚げ、カツ、パエリア、トルティーヤ、ステーキ、照る焼き…。」

「お姉さんは?」

 母はホッとした表情を、真木は、困ったという表情になった。

「いろいろとやっているわよ。」

「下手でも、簡単なものでもいいから、少しはやってみろ。インスタントやレトルトに、一手間かけるだけでもいいから。」

「は~い。」

 2人が、彼女の分を持ってくると、美味しそうに、もりもり食べ始めたのを見て、一同は独り暮らしの姉の生活ぶりが目にうかんだ。

 真木もデザートに移った時、初瀬川父が穏やかな表情で、おもむろに、

「こういう場所でなんだが、玉輝て鏡華は、学校ではどうなんだろうか?仲良くやっているかね?疲れたようなところはないかね?」 

 一同は、言葉に困った。

「お父さん。みんな困っているよ。」

 初瀬川兄は、しようがないな、という表情で言った。

「そうだな。みんな悪かった。忘れてくれ。つい、心配でね。」

「お父さん。私達は、大丈夫よ。私達のために頑張ってくれている、お父さん、お母さんには感謝しているわ。」

 初瀬川妹の言葉に、初瀬川兄が肯いた。 

「私には感謝はないの?」

「姉さんには、独り暮らし先の掃除と料理作りとたまに帰って来たときのお世話で、借りは返してしまっていると思っているよ。いや、もう、貸しだよ。」

 今度は初瀬川妹が、大きく首を上下に動かした。

「二人とも酷いわ。」

と嘘泣きの素振りをする。

「自業自得よ。」

「3人に全然同意。」

 5人は、それでいて表情は明るいので、他の者達もクスクス笑った。

 父があのようなことを、この場で言ったのは、そういうことを心配しているのを自分達にアピールするためだと、初瀬川兄妹は分かっていた。 

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