第206の扉  冬です!

「「冬です!」」

「冬だね」

「「冬と言えば?」」

「冬と言えば?」

「「スケートだーーーー!」」

「おぉ!?」


 アホ毛トリオ、おっと失礼、彬人と結愛と風花が騒いでいる。現在季節は12月。ひかるの再来から数日経過した頃、翼たち10人は神崎グループ特設スケートリンクに遊びに来ていた。


「「すけーととは?」」

「これである!」


 初体験の風花と太陽の疑問に、彬人が身体を張って答えてくれる。

 彼も風花たちと同様にスケート初体験のようで、カッコよく滑りたいと心躍っているのに、全然身体が言うことを聞いてくれない。プルプルと生まれたての小鹿の如く震えながら、風花と太陽にお手本を示してくれる。


「このようにして、滑らかに滑るのである!」

「楽しそう!」

「楽しそうです!」

『なぁ、太陽。後で俺と変わって。俺もやってみたい!』

「もちろんです!」


 彬人は随分カクカクしながら滑っているが、風花と太陽の瞳は輝くばかり。満面の笑みで眺めていた。


「このままでは寒いですので、着替えましょうか」

「「はーい!」」


 いつまでも眺めていそうな二人を呼んで、うららが消えていく。室内とはいえ、氷の近く。防寒対策はきっちりして楽しまなくては、風邪を引いてしまうだろう。






_______________







「ぐ……かわ」

「翼、モザイクになってるぞ」


 風花たちの着替えが終了。そして、風花の姿を見た瞬間、翼がモザイク翼に。風花は毛糸のポンポンがついた帽子と手袋、モコモコのコートを身に着けており、可愛らしい仕上がりである。ちなみに太陽は風花と色違いの物を着ている。


「誰だい、桜木さんをあんなに可愛く仕上げたのは。天才じゃないか、いや神か」

「私ですわ」

「神崎さん、あなたが神か。流石過ぎるありがとうございますうらら様」

「翼、キャラ崩壊してるぞ」


 モザイクになりながら、キャラ崩壊し始めた翼。自分をしっかりと持ってほしい物である。


「すごいの!」

「すごいぞ!」

「すごいです!」

「ツルツルなの!」

「ツルツルだぞ!」

「ツルツルですね!」


 一方で無邪気な風の国組。太陽は月と交代しながら、キャッキャッと堪能している。転んだりしているものの、とても楽しそう。


「最初は誰かと一緒に滑った方がいいかもしれませんわ」

「俺と一緒に滑ろぉ?」


 そんな彼らの元へ颯とうららが手を差し伸べた。彼らはスケート経験があるようで、スイスイと滑ることができている。頼もしい先生だ。


「「よろしくお願いします!」」


 風花がうららの手を、太陽が颯の手を取った。しかし、この時の選択を太陽はすぐに後悔することになる。


「よぉし! 手、握ったねぇ?」

「え……颯さん、何を……」


 太陽が手を握った瞬間、颯が真っ黒な笑みを浮かべた。嫌な予感を覚えた太陽が彼の手を振りほどこうとするのだが、滑りやすい氷の上、思うように力を込められない。


「行くよ?」

「ちょ、わっ! 颯さん、速い、待って、くださああああ」

「ははは、大丈夫大丈夫! ちゃんと手を持っていてあげるからねぇ」


 颯が太陽の手を持ったまま猛スピードで滑っていく。颯は楽しそうだが、スケート初体験の太陽からしてみればたまったものではない。スケートリンクに彼の叫び声が響き渡った。


「うららちゃん上手だねぇ」

「風花さんもすぐに上手くなりますわ」


 一方女の子たちは平和そのもの。風花とうららが仲良く手を繋ぎながらゆっくりと楽しんでいる。風花は時々転びそうになるものの、うららが支えてくれるので、満喫できているようだ。


「お手て繋いで可愛いね♡」

「……」


 ありがたそうに合掌して、風花の姿を目に焼き付けている翼。そんな彼の隣では、優一のため息が止まらない。翼は最近口も顔も緩いのだが、こんな調子で大丈夫なのだろうか。いつか風花を目の前にしてやらかしそうで、気が気ではない。


「キーーーーーーン!」

「うわっ」


 優一がため息を零していると、ドンと鈍い衝撃音がして翼が滑って行く。そして、先ほどまで翼が居た優一の隣には、アホ毛モンスターがアホ毛を揺らして立っていた。


「およよ? 強く押しすぎたかな?」

「いや、佐々木。これはファインプレーかもしれない」

「……! ふふん、結愛は良くできる子なのです!」

「よしよし。……あ、そうだ、もう一つ頼みたいことがあるんだ、いいか?」

「およ?」

「ここでスタンバイしてろ。俺が合図したら突撃してほしい」

「あいあいさー!」


 自慢げな結愛をそのまま調子に乗せて、優一が何やら画策している。彼は何をするつもりなのだろうか。意図は分からないものの、結愛が指示通りに発射準備完了。後は合図を待つのみとなった。


「っとと」


 結愛に押された衝撃に何とか耐えて、翼はバランスを保つ。翼はスケート初心者ではないものの、いきなり押されては危険である。結愛に文句を言ってやろうと意気込んでいると……


「あ、相原くんだ!」


 風花の声が耳に届いた。声の方に目を向けると、うららの手を離れて一人で向かってきてくれている風花の姿が。それと同時に、翼の中から結愛に対する文句の言葉がポンッと抜ける。


「ぬんっ」


 風花が一人で一生懸命自分の元に向かってきてくれているという事実に、翼の顔がモザイクに。しかし、幸い風花は転ばないようにバランスを取るのに必死なので、翼の放送事故には気がついていない。


「わわわっ!」


 しかし、翼まであと一歩という所で、バランスを崩して転びそうになってしまった。その瞬間、翼はモザイク処理を高速で終わらせ、彼女が転んでしまう前にその腕を支えてあげる。


「大丈夫?」

「ありがとう、相原くん。ごめんね。難しいな、なかなか慣れないや」


 恥ずかしそうに笑いながら、風花は翼にお礼を言う。そして、不安定で転びそうなので、翼の服をギュッと握ったまま。

 彼女のその言動に思わず翼の喉がゴクリと鳴った。そして、しっかりと顔を引き締めて、言葉を紡ぐ。


「よ、良ければ、ぼぼぼ、僕と、い、一緒に、滑る?」

「いいの!? ありがとう!」

「ぐ……」


 翼の提案に満面の笑みで答えた風花。ゼロ距離で彼女の微笑みを見てしまった翼はまた顔がモザイク寸前である。何とか表情筋に力を込めて、二人でゆっっっっくりと一周始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る