第87の扉  代表者決定

観客たちが息を呑んで見守る中、土煙の中に動く一つの人影が。


「……勝者、陽光選手!」


 煙の消えた会場にしっかりと陽光が立っていた。身に着けている鎧はボロボロ。怪我も至る所に負っていたが、意識はある。彼は観客に勝利を示すように拳を頭上に掲げた。


「わーーーー!」


 彼の行動で観客たちは沸き立つ一方、太陽は倒れてピクリとも動かない。彼が着ている白色の魔法衣装はボロボロ。破れた服からちらりと見える皮膚には痛々しい傷が。そして、しっかりと握りしめて離さない彼の剣は、先ほどまで纏っていた二色の光を失い沈黙していた。


「医療班!」


 白衣に身を包んだ集団が太陽を担架に乗せて、運び出していく。全力で挑んだ二人に観客が暖かい拍手を送った。


「良い試合だった……」


 運ばれていく太陽に向かい、陽光はポツリと呟いていた。










「太陽!」

「かず、はさん」


 医務室へと運ばれていく太陽の元へ一葉が駆けつけた。ボロボロで傷だらけの身体だが、命に別状はないらしい。すでに意識が戻っており、彼女の名前をしっかりと呼んだ。

 ニコリと微笑んでくれる太陽を見た一葉から息が漏れる。あんな攻撃を食らったのに、生きていることが不思議だ。やはり太陽はすごい。


「太陽、さっきの……」


 彼の無事を喜んでいた一葉だが、気になることが一つ。

 陽光との戦いの中で太陽は白と黒の二色の光を剣に纏わせていた。しかも、その光を纏わせた瞬間、彼の身体が黒い物に覆われたのだ。

 太陽は魔法が使えない。使えるのは扉魔法と回復魔法のみで、戦闘系の魔法は使えないはず。彼は最初に会った時にそう言っていたのだ。

 しかし、先ほどの太陽は明らかに魔法を使っているように思えた。あれは一体……


「白と黒の……」

「次は、代表決定戦ですね」

「え、あぁ、うん」

「頑張って、くださいね。彼は、手強いですよ」


 一葉の言葉を遮り、太陽がエールを送る。いつも丁寧に自分たちの話を聞いてくれる太陽。そんな彼が話を遮った。余程聞かれたくないことなのだろうか。


「……頑張るよ」


 一葉はしっかりと頷く。次の対戦相手は太陽を倒した程の強者。試合に集中しなければ、勝ち目はない。太陽のことは気になるものの、一葉は頭から追い出した。

 自分の試合に集中する。

 一葉は決意を固めて、その瞳に鋭い光を宿した。太陽はそんな彼女に微笑むと、再び意識を手放す。













「勝者、相原翼!」

「軽く、思えた……」


 翼は無事に2回戦を勝ち抜き、Bブロックの代表決定戦へと駒を進めた。

 1回戦の時と同様、相手の攻撃を軽く感じていた。それは太陽との修行の成果だろう。ずっと太陽の重たい一撃を受けている彼にとって、軽く感じるのも当然なのかもしれない。翼は自分の成長にグッと拳を握った。自分はもうただの弱虫ではない。


「勝つんだ」


『Bブロック代表者決定戦 相原翼 VS 赤木』


 翼はついにブロック代表になれた。そしてその相手は、颯を一瞬で倒した強敵。筋肉隆々、たくましい腕。さすがに彼の攻撃を軽いと感じられるほど、自分は強くないだろう。それでも、自分は勝たなくてはいけない。大切なものを守るために。


「颯くん、必ずかたきを取るからね」

「うん、よろしくねぇ」

「うわ!?」


 翼は自分の横から発生した声に驚いて、尻餅をつく。心臓がドックンバックンと脈を打つ中、声の発生源へと顔を向けると


「颯くん! もう大丈夫なの?」

「うん、ちゃんと治療してもらったよぉ」


 にっこりと微笑む颯の姿が。彼は赤木に倒されて医務室で治療を受けていたのだが、それを感じさせない程いつも通りである。バトル大会の救護班はとても優秀なようだ。重症だった彼だが、この短時間で回復を遂げている。翼は感心すると共に、一安心した。


「そう言えば、他のブロックのトーナメント表が面白いことになってるよぉ」

「んぇ?」



Aブロック 桜木風花 VS パルト

Bブロック 相原翼 VS 赤木

Cブロック 成瀬優一 VS メグ

Dブロック 藤咲一葉 VS 陽光



 各ブロックの代表決定戦に駒を進めているのは、見知ったメンバーだった。


「ほわぁ」

「これは本当に、僕たち全員が各ブロック代表者になるかもしれないねぇ」


 翼の心の中に緊張が沸き起こる。もしかすると、本当に颯の言う通りになるかもしれない。



 自分たちは今までで強くなった。強敵相手にここまでできるほどに。みんな頑張っているんだ。僕も頑張らないと……




【Aブロック代表者決定戦 桜木風花 VS パルト】


「あなたにだけは、絶対負けません」

「それはこっちの台詞だよ、お嬢ちゃん」


 声に怒りを乗せた風花が対戦相手のパルトを睨むも、彼はその視線に動じず、涼しい顔をして答えていた。ピリピリとした空気が二人を包む。




【Bブロック代表決定戦 相原翼 VS 赤木】


「ヨロシク、オネガイシマス」

「よろしく」


 翼は緊張で再びロボット化しているも、赤木はそんな彼を笑顔で眺めていた。




【Cブロック代表決定戦 成瀬優一 VS メグ】


「……」

「っ!?」


 優一の対戦相手、メグは優一よりも身長が小さく小柄。その体格にあっていない程の大きなローブに身を包んでいる。顔が全く見えない。

 目の前の少女から発せられる威圧感、いやむしろ殺意に似ているソレが優一を射抜いた。

 この大会で殺し合いは禁止。だけどその冷たい目は言っている。「お前を殺してやる」と。





【Dブロック代表者決定戦 藤咲一葉 VS 陽光】


「お前の剣には迷いがあるようだ」

「どういうこと?」


 陽光は剣を構える一葉に余裕の笑みで言葉を投げる。彼女の相手は前回の試合で太陽と死闘を繰り広げた王国騎士。彼は一葉の雰囲気、剣に何かを感じ取っているようだ。


「そんな迷いの乗った剣では、戦場で死ぬぞ?」






 それぞれのブロックで戦いが始まろうとしていた。全員の目に強い光が宿る。

 各ブロックの代表者決定戦。今までの比にならないくらいの緊張感が会場を包み込んだ。観客も固唾を呑んでその様子を観戦している。この試合の勝者がこの次、各ブロックの代表者と戦い、大会の優勝者が決定することになる。



「試合スタート」


 審判の声が会場内に響き渡った。

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