第85の扉  神崎うらら VS 成瀬優一

【Cブロック 2回戦第1試合 神崎うらら VS 成瀬優一】


「よろしくお願いします」

「こちらこそ……」


 優一は笑顔で微笑んでいるうららに、ため息とともに返事をした。優一が一番戦いたくなかった相手は、うららなのだ。

 うららは頭の回転が速い。それに加えて勘も鋭い。どんな作戦を考えてきているのか、と優一の警戒心は高まる。


「それでは、はじめ!」


 審判の声がかかると同時に、うららの顔から笑顔が消える。そして優一の顔からも憂鬱な表情が消えた。両者真剣勝負。手を抜くつもりは毛頭ない。

 うららは一直線に優一に向かっていく。


lightライト arrowアロー!」


 うららは優一に向けて、大量の光の矢を放った。上空から何本もの矢が、彼をめがけて降り注ぐ。


lightライト fistフィスト!」


 そして光の矢を放ったうららは、すかさず拳に魔法を込め始める。彼女の拳にまばゆい光が集まっていった。


「くっそ!」


 優一は頭上に無数の矢、正面からはうららの拳で挟まれてしまう形になった。焦りの混じった声が優一から漏れる。しかし……


「っ!」


 うららは優一の表情を見て、唇を噛みしめる。

 彼は笑っていたのだ。

 優一は冷静沈着。今までどんな場面でも、彼が取り乱すことはなかった。二つの方向からの攻撃程度では、彼を追い詰めることはできないようだ。すでに策を練っているのだろう。彼の笑顔がそれを物語っていた。

 しかし、何か策があったとしても、うららが攻撃の手を緩めることはない。そのまま優一の元へと進んでいく。


waterウォーター shieldシールド!」


 うららの攻撃が届く直前、彼の口が動いた。優一は手のひらを頭上へ掲げ、杖を自分の正面に構えている。


 パンッ!


 手のひらと杖の先から水の盾を展開し、弓矢と拳を受け止めた。その衝撃でパシャ、パシャと水が地面に飛び散っていく。


「おぉ」


 観客から感動の声が漏れた。彼は二つの場所から同時に技を出現させたのだ。魔力量の操作を誤れば、どちらかの攻撃が盾をすり抜け、優一に当たってしまっていただろう。精密な魔力コントロールが必要な技を、彼は一瞬でやってのけた。


「さすがですわ」


 うららは攻撃を防がれると、ぴょんと後ろに飛び距離をとる。才能の塊である優一を仕留めるのは、やはり一筋縄ではいかないようだ。しかし、こちらも負けていられない。


swordソード


 うららは早速杖を剣へと変化させる。彼女を眩い光が包み込み、神々しい雰囲気を放ちだした。光が消えると彼女の手には黄金の剣が。


「さすが、切り替え早いな」


 優一はうららの対応の速さに感心を示しながらも、自分も水の剣を構える。彼女の頭の中には、何パターンの作戦が駆け巡っているのだろうか。何手先の攻撃を予測して行動しているのだろうか。

 少しでも気を抜くと、彼女の術中にはまるだろう。優一の額に汗が滲んだ。


「行きます」

「来い」


 瞳に鋭い光を宿しながら、二人が一気にお互いの距離を詰める。キンと二人の剣が交わる音と共に、すさまじい風が会場内に吹き荒れた。優一の水の剣と、うららの光の剣。剣が交わる度に会場内に水が飛び散り、光が反射して眩く輝いた。


「っ……」

「ぐ……」


 両者一歩も譲らない剣の攻防。観客もその光景を息を呑んで見つめていた。会場内には優一とうららの剣が交わる音、その衝撃波、二人の息遣い、それ以外の音は聞こえない。張りつめた緊張感の中、飛び散った水が大小の水たまりを作っていた。うららはその様子を見て、小さく声を漏らす。


「そろそろ、いいですわね」


 静かな会場内でも彼女のその声は優一に届かない。ただ彼女の纏う空気の微妙な変化を見逃さず、優一は肩眉を上げた。


(何をするつもりだ?)


 うららは剣を消して、素早く優一から距離を取る。そして……


flashフラッシュ!」

「っ!?」


 うららが杖の先から光を繰り出した。会場内に飛び散っていた水溜まりに反射して、眩い光を作り出す。


「くっ!?」


 今まで彼女が時間をかけて、攻撃してきたのはこの瞬間のためだったのだろう。最初の大規模攻撃から、優一の水を利用して水溜りを作った。自分の光を最大限に利用するために。

 光の中心地になってしまった優一は目を開けていることができない。


「これで終わりですわ」


 うららが動くことができない優一との距離を縮め、拳を叩き込もうと動く。しかし……


waterウォーター holdホールド!」


 勝利を確信していたうららの耳に、優一の声が届いた。彼は目を開けることができないため、うららの正確な位置は分からない。だから彼が攻撃を繰り出しても、うららを捕らえることができない、はずだった。


「な、んで……」

「悪いな」


 うららが混乱する中、優一の放った水の腕が彼女の身体を捕らえる。拘束を解こうともがくも、がっちりと掴まれてしまい、全くほどけない。


「はぁ」


 うららは諦めてため息をつく。彼の方が一枚上手だったようだ。

 うららの放った光は水の反射で増幅されていたため、彼が水を回収すればそこまでの強い光ではない。優一は瞬時にそれを判断し、行動に移した。そのため光の反射が弱まったようだ。その隙に目を開けて、うららの居場所を特定されてしまった。


「降参ですわ」

「成瀬優一の勝利!」


 うららの降参宣言と共に、観客の歓声が響き渡る。












【Bブロック2回戦第2試合 鈴森颯 VS 赤木】


「よろしくお願いしまぁす」


 颯ののんびりとした声が響く。そんな颯とは対照的に、観客席では翼がガチガチになりながら試合を観戦していた。


「颯クン、頑張レ」


 またロボットと化しているようだが、颯は翼に気がつくとニコリと笑い、手を振っていた。そして、目線を目の前の対戦相手に移す。



 颯の相手の種族は人間。しかしその体つきは素晴らしい。筋肉ムキムキで、たくましい体つきをしていた。動きやすいようにTシャツにチノパンという軽装備で立っている。見たところ剣などの武器は所持していないようだ。


「こちらこそ、よろしく」


 対戦相手の赤木はニコリと颯に微笑む。


「試合スタート!」


 審判の声が響き渡った。

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