第4章 本当の戦い
第68の扉 水の国編その1
「スキ、キライ、スキ」
プチプチと花占いをしながら歩いている人物が一人。
「キライ、スキ、キライ」
彼がちぎった花びらを落としていくので、歩いた後ろには花の道ができていた。
「スキ、キライ、スキ……」
最後の一枚をプチリともぎり、彼の花占いは終了した。それと同時に口からふぅと息が漏れる。
「僕は本当に……」
花占いをしていたのはもちろん翼。今日は魔法の練習のために風花の家へと向かっていた。
翼は優一に言われてから、自分の中にある気持ちの正体を考えてみた。風花のことを考えると、胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚がする。彼女の笑顔を思い出すと、より一層苦しい感じもする。
「痛い……」
しかし、翼はまだ中学二年生。今までこんな感情を経験したことはなかった。これが恋なのだろうか。考えてみるも一向に答えは出そうにない。もう一度彼の口からため息が漏れる。
「よし!」
これ以上考えても答えは出ないだろう。優一からも焦る必要はないと言われていたので、ゆっくり向き合っていこうと心を決めた。
そして、魔法の練習をする時にそんなことを考えていては、折角練習に付き合ってくれている風花たちに失礼になる。翼は自分の気持ちを奥へと押し込める。
「おい、花占い少年」
「「メルヘンだねぇ」」
翼が自分の気持ちを押し込めていると、後ろから優一、美羽、一葉の姿が。彼らも今日風花の家へと集合予定である。
仲良くみんなで話しながら、風花の家へと向かっていたのだが、翼には気がかりなことが一つ。
「そう言えば、あと一枚残ってるんだよね? カード」
先日の風花拉致事件。犯人であるひさしは、あと一枚魔神カードを持っている。彼が教室でカードを使えば、多くの命が消えてしまうだろう。
更に、また憎しみの対象が風花に向いてしまうと危険である。どうしたらいいのだろうか、と翼と優一が考えていると……
「そのことなら問題ないよ」
「もう風花の視界に入らないよう躾といたから」
「「……」」
美羽と一葉が何やら逞しいことを呟いている。何をしたのかは聞かないことにしよう。
「あ、みんな来た! こんにちは」
「「こんにちは」」
翼と優一が女子二人の逞しさに感動していた時、風花が玄関から顔を出した。どうやら翼たちが到着する少し前に、太陽の持つパソコンがしずくの気配を感知したらしい。
「異世界?」
異世界にある心のしずくは、ランダムでレーダーに反応するようだ。反応があった水の国は、その名の通り水の多い国。流れる水はとても透きとおっており、清浄。水巫女と呼ばれる巫女が浄化しているようだ。
「そういえば、異世界でちゃんと心のしずくを探すの初めてだね」
翼がふと口を開く。確かに今までダンジョン、月の国など異世界に渡ることはあったが、そこでのしずく探しは初めてだ。
「京也くんがやっていることと変わらないよ。大体のポイントの所に移動して、その後しずくを探すの」
そして異世界で反応があったしずくは、京也のレーダーでも反応しているとは限らない。そのため彼が襲ってくるかどうかは分からないそうだ。
「じゃあ、向こうに反応する前に早く行こう!」
「扉を開きます。お気をつけて」
翼たち5人は扉をくぐり抜け水の国へと向かう。
この時の僕たちは何も知らない。本当に何も知らなかったんだ、現実は甘くないってことを。そして、戦うことの本当の意味を。
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「ここが水の国?」
「どういうこと?」
翼たち5人は水の国に到着。至る所に川が流れており、橋もかかっているのだが、流れる水は真っ黒。綺麗な水が流れている場所は存在しなかった。太陽から聞いた話と違いすぎる光景に、翼たちは戸惑いを隠せない。
「旅の方ですか? もし良ければ水を分けてはいただけないか?」
手や唇がカサカサの老人が、戸惑っている翼たちに話しかけてきた。優一が魔法で水を作り出すと、彼は両手で受け取り、一気に飲み干した。長い間水を飲めていなかったのだろうか。物凄い勢いで水を飲みほしている。
「ありがたや。ここ最近は飲み水も僅かな状況で……」
少し元気になった老人が、現状を説明してくれる。
水の国の近くには大きな森がある。その森の毒素が流れてきて、水が汚染されたようだ。普段は水巫女と言われる巫女が浄化しているのだが、今その力が弱まっているらしい。
「今が代替わりなのです。水巫女様の家系はその家に生まれた女の子が、15歳になると次の水巫女として力を授かり、この国を守ってくださることになっています」
今まで母親が水巫女として守っていたが、先日病に倒れてしまった。医者が診ても原因は分からない。
その娘は今14歳、3日後に神殿で儀式を行い水巫女となる。丁度翼たちの後ろに水のように透き通った水色で、太陽の光を反射している神殿があった。3日後にそこで儀式が行われるのだろう。
「何だか大変そうだね」
「日本がどれだけ安全なのかがよく分かるよね」
今まで生活していた環境とあまりにも違い過ぎる状況。老人の話には驚きを隠せない。
「桜木さん、どうかした?」
「あのぉ……」
そんな中、翼は風花は難しい顔をしていることに気がついた。彼女の瞳がためらいがちに揺れている。彼女は何を思っているのだろう。
「
「
それぞれの魔法を生かし、水を作り出していく。彼らの前には、あっという間に長い行列が。
風花の提案で、しずく探しは一旦中断し、水を分ける決断をしたのだ。現在水の国は深刻な水不足。困っている人たちを見捨ててのしずく探しは彼らにはできない。
「私たちはこれくらいの宝石みたいな石を探して旅をしているんです。見かけませんでしたか?」
「ごめんね、見てないな」
水を配りながら、風花が町の住民たちに心のしずくの情報を尋ねる。しかし、なかなか目撃情報は得られない。
風花の心のしずくは手のひらサイズ。とても小さい物なので、情報はあまり得られなかった。
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「ふぅ……」
1時間ほど配っていると、そうやく長い行列をさばけた。魔法を出していた4人はぐったりとヘトヘト。
「あ、あの……」
そんな中、一人の少女がやってきた。紺色の艶やかな髪をなびかせて、くりっとした目が特徴の可愛らしい少女。
「私は次の水巫女の
風花の前までやってくると、ぺこりと頭を下げてくれる。彼女が先ほど老人が教えてくれた、次期水巫女のようだ。
「あ、の……」
ぺこりと下げていた頭が上がると、申し訳なさそうな顔をした玲奈が。モジモジしているようにも見える。どうしたのだろうか。
「お願いがあるのです」
「お願い?」
「水を提供していただいているだけでもありがたいことなのに、加えてこんな……」
玲奈は話しづらそうにうつむいている。彼女の話とは何だろう。風花はそんな彼女の様子にコテンと首を傾げた。
しばらくすると、彼女は顔を上げ、真っ直ぐに風花を見つめてこう言った。
「私を、守ってくれませんか?」
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