第1章 はじまり
第1の扉 出逢い
今日は
門のそばには何本もの桜が植樹されており、今年も満開の花を咲かせている。
「不思議な感じの子だったな……」
桜の木の下で、ポツリと呟いているこの少年は
キーンコーンカーンコーン
「あ、教室に行かないと」
桜の木の下にぼけっと立っていた翼は、鐘がなり自分の教室へと急ぐ。
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「おはよう、翼」
「優一くん、おはよう。また同じクラスだね」
彼は
「そう言えば、転校生が来るみたいだぜ」
翼が口元を緩ませていると、優一が話を振る。クラスの名簿表に見知らぬ名前があったようだ。
「転校生……」
翼は先ほど桜の木の下で出会った少女のことを思い出す。彼女が転校生だろうか。不思議な感じのする女の子だった。
「みなさん、おはようございます」
翼が転校生について思いを馳せていると、担任の西野と副担任の大和が教室に入ってくる。騒がしくしていたクラスメイトが、それぞれ自分の席へと慌ただしく戻っていった。翼たちも自分の席へと戻る。
「おはようございます。担任の
「副担任の
西野は30歳くらいで数学を担当している。眼鏡をかけており、優しい雰囲気で生徒たちからの人気も高い教師だ。
大和は去年新卒でこの学校にやってきたばかり。教科は国語を担当している。生徒たちと年齢も近いせいか、休み時間に楽しそうに話している姿を見かけた。
二人の挨拶に続いて翼たち生徒も「よろしくお願いします」と頭を下げる。
「転校生を紹介しますね」
西野が教室の扉に向かって声をかけると、一人の少女が入ってきて隣に立った。その少女の姿を見て、翼から「あ」と声が漏れる。
「
その少女は、翼が先ほど桜の木の下で出会った少女だった。髪は肩につくくらいの長さで、真っ黒。目はクリッとした二重で瞳は薄い緑色を帯びている。
「これからよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げ、透き通った声が教室に届く。風花は緊張のためだろうか、無表情のまま挨拶をしていた。
「桜木さんはご両親の都合で、今日からみなさんと一緒に勉強します。席は窓側の一番後ろの席ですね」
「はい」
風花は西野にお礼をいい、自分の席へと歩いていく。
「さて、これからですが、まず体育館で……」
風花が席につくと、西野から今後のスケジュールが発表される。まずは体育館で、校長先生からの長い長い話があるようだ。憂鬱になりながらも、次々と生徒たちは体育館へと移動していく。
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「えー、みなさん、おはようございます……」
校長先生の話は長い。とても長い。次々と船をこぎ始める生徒たち。
(寝たらダメだ……)
「ふぁあ」
翼は頑張って目を見開き聞いていたが、優一はつまらなさそうに欠伸をしていた。
「……」
ふと気になり、翼は風花の方をちらりと見てみる。風花は相変わらずの無表情で、話している校長先生の方を見ていた。しかし、その瞳は真剣そのもの。真面目に校長先生の長い長い話を聞いているようだ。
ほとんどの生徒がつまらなそうに話を聞く中、風花のその真剣な瞳は珍しい。
(真面目でいい子なのかな……)
翼は校長先生の話そっちのけで、不思議な雰囲気のする転校生について思いを馳せていた。
「はい、それではみなさん。気をつけて帰ってくださいね」
どれくらいの時間が経っただろう。生徒のほとんどが眠りの国に旅立つ中、やっと長い長い校長先生の挨拶が幕を閉じた。
今日は始業式のみなので、翼たちは半日で学校から解放される。
「やっと終わった。翼、一緒に帰ろうぜ」
翼と優一は途中まで帰り道が同じなので、よく一緒に帰っている。二人仲良く肩を並べて、家への道を歩き始める。
「ずっと春休みだったらいいな。半日学校にいただけでこれだけ疲れてたら、明日からが心配だ」
「そうだよね、身体がなかなか勉強モードにならないよ」
休み明けはいつも憂鬱な気分になる。明日から本格的に授業も始まるので、二人はますます憂鬱な気分を感じていた。
「ちゃんと勉強しないとな……」
「俺が教えてやるよ」
「いいの!?」
優一の申し出に、翼の目がキラキラと輝く。優一は成績優秀で学年主席なのだ。真ん中程度の平凡な成績の翼からしてみれば、彼に教えてもらえることほど頼もしいことはない。
「俺で良ければ」
「ありがとう! 僕頑張るよ!」
翼は鼻息荒く拳を握っている。彼らの通う学校は中高一貫校なので、高校受験はないのだが、いい点数を取れることに越したことはない。それに何より友人が自分のために時間を割いてくれるのだ。頑張らざるを得ないだろう。
「おっと、ここでお別れだな。また明日」
「うん、またね」
翼がやる気に満ち溢れていると、二人の家の分かれ道にたどり着いた。お互いに分かれの挨拶を交わし、家路につく。
「ん?」
しばらく翼が歩いていくと道の先に風花がいるのが見えた。しゃがみこんでキョロキョロしている。何かを落としたのだろうか。翼は首を傾げながら、風花に話しかける。
「どうしたの? 何か探している?」
「あ、相原くん」
風花は突然の翼の登場に一瞬目を見開くも、すぐに無表情になって彼の名前を呼んだ。転校初日の転校生が、自分の名前を覚えていてくれたので、翼の頬が少し緩む。しかし、風花は相変わらずの無表情。学校では緊張のためと思っていたが、普段からこんな感じなのかもしれない。
「何か落としたの? 探すの手伝おうか?」
「いいの? これくらいの大きさの石を落としてしまったの」
風花は指で大きさを示して教えてくれる。手のひらの半分もないサイズの石で、雫の形をしているようだ。
「この辺りで落とした? それくらい小さいと探すの大変だよね。すぐに見つかるといいけど……」
「ありがとう」
風花はお礼と共に、少しだけ表情に変化をみせた。その表情は笑顔とはいえないくらいに硬いものだったが、少し口角が上がっている。会って間もない彼女だが、その表情は初めて見せた感情らしい感情だった。
「あ……」
翼が風花のぎこちない笑顔に驚いている間に、風花はまた元の無表情に戻ってしまった。やはりあまり感情を外に出すタイプではないのかもしれない。
______________
「見つからないね」
「……」
翼は腰が痛くなったので、立ち上がって伸びをしていた。二人で捜索を開始するも、探し物は30分以上経っても見つからない。翼の心の中に諦めの感情が沸き起こるが、風花は依然黙々と草むらを探している。彼女の顔は無表情のままだったが、その目には焦りの色が浮かんでいるようにも見えた。よほど大切なものを失くしてしまったのだろう。
「よし!」
翼が諦めの気持ちを吹き飛ばして、捜索を再開しようとしていた時……
ドーン、と大きな音が鳴り響き、2人の後ろの地面が割れた。
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