第4話 城戸ハリス
第4話 城戸 ハリス
突然だが、軍人と聞いたら、どんな人を思い浮かべるだろうか。2メートルを超える長身に顔には無数の傷が刻まれている人を想像することができたら、あなたは正解だ。俺の目の前にはどう見ても普通に会社で働いている人には付かない傷が付いている男が立っていた。
「おい、7分の遅刻だ。ぶっころすぞ。」
「すみません。でも、麗華とかが。」
「何言い訳してるんだよ。」
「すいませんでした。俺が遅れただけです。」
「よし。スクワットを始めろ。カウントは数えなくていい。」
俺は何も考えずにスクワットを始める。この人と接する時は、動いてから考えるようにしている。なぜなら、軍人だから。これだけでは説明になっていないとはわかっているが、もうそうとしか言いようがない。ちなみに、カウントは数えなくても良いというのは、ハリスが良いという限り、無限にやれということだ。
「すみません。質問いいですか?」
このスタイルはこの人の俺の指導が始まってから、最初に徹底されたことだ。ハリスが言うには、軍では戦場でこそ指揮系統が乱れやすいため、このように質問をしていいかどうかの質問をするように徹底するらしい。でも、よくよく考えたら俺は軍の人間じゃないし、なんなら戦場になって行ったことも無ければ、行く予定も無い。まあ、ハリスは怖いから従うけれども。
「いいだろう。スクワットは続けろ。」
「あの、なんで日本語で喋っているんですか?」
「気分だ。」
俺は思わず、叫びたくなる気持ちを抑える。ダメだ。俺は軍人なのだ。いや、違うけれども、そういうのはこの人の前ではダメなのだ。俺はずっと思っていたのだ。ハリスの指導が始まった時から、ハリスは英語しか喋れないものだと。だから、ハリスとコミュニケーションを取るために、必死で努力したし、なんなら英語も喋れるようになった。もちろん、ハリスが英語を教えてくれるわけでは無いから、ハリスの真似をするだけだ。そのせいで、俺は帰国子女のやつから、「なんて口が悪いんだ。地元のヤンキーかと思ったぜ。」と言われるほどの英語力を手に入れた。別に羨ましくもなんとも無い。
「そういやお前、8億円で買われたらしいじゃねえか。ウケるな。」
「いや、何も面白くありません。」
「ということで、俺はお前の訓練時間を増やしておいた。喜べ。」
何が「ということで」なんだろう。それに何を喜べば良いのだろう。というか、なんで俺はこの人に訓練をさせられているのだろう。スクワットをやめ、腕立て伏せを始める。すぐさま、指でやれと言った指令に黙って従う。そうして、思い出す。初めてハリスと会った時のことを。なんで、こんなことになったのかを。
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