第3話 身分調査
第3話 身分調査
「山田 翼。いつ見ても、つまらない名前ね。」
「なあ、お前は人を馬鹿にしないと生きていけないのか?」
「違うわよ。自分より弱い人を見ると、いじめたくなっちゃうの。美少女の特徴ってやつね。」
「そんなの美少女じゃねえよ。」
麗華が紙をめくる音がやけに大きく聞こえる。
「17歳。借金がある。ここら辺はどっちでもいいわね。交友関係。あなた、新しい友達はできたの?」
「全人類皆俺の友達だから、強いていうならできてねえな。」
「戯言は置いておいて、4人って何も変わってないじゃないの。」
「サッカーの子たちですか。井門、芹沢、新海ってこれ変わってないじゃないですか。」
二人に言い訳するように、俺はボソボソと喋る。
「だって、誰も話しかけてきてくれないんだよ。あいつら以外。自分から話しかけるのって、難しんだよ。ね?仕方ないじゃん。うん、仕方ない。俺は何にも悪くない。」
「井門、ポジションはボランチ。別名、反則王。ボール奪取に優れているが、反則も多い。この前、9回目のレッドカードを提示され、高校最多の数字となった。って、これ面白いじゃない。」
麗華とアリスが二人で楽しそうに身分調査の紙を見て喋りだした。俺も、彼女らの後ろに回って、それを一緒に見る。
「芹沢、ポジションは右ウィング。圧倒的な力に任せた左足から放たれるシュートは次元の違いを感じさせる。未だ、高校二年生にして、高校生の最多得点記録者となっていることから、素晴らしい才能があることは明白。ところが、U18の日本代表に選ばれた時に、ドリブルとシュート以外のことをしないことが判明。なぜ、パスを出さないかと聞かれた時に、「俺より上手い奴にはパスを出しますけど、どう見ても俺より上手い奴がいませんし、それにシュート打つの楽しいですし。」と、答えたことから、代表から追放。それ以降は代表に呼ばれていない。」
「芹沢君言いそうですけど、本当なんですか?」
「なんか本当に言ったみたいだな。」
「怖いもの知らずですねえ。」
麗華が半ば興奮したように、三枚目の報告書をめくる。そこには、俺らのリーダーの物が書かれていた。
「新海、ポジションはセンターバック。圧巻のルックスを持ち、凄まじく高精度のパスをだす。その点、ディフェンス能力はあまり高くないため、代表などには招集されない。あくまでも、彼が輝くのは、彼が作った今のチームにタレントが揃っているからである。」
「これ書いた人、サッカー好きなのか?全然、俺の身分調査になってないと思うんだが。」
「ですよね。私たちはわかるからいいんですけど。」
「いや、合ってるわよ。」
「え?」
麗華は4枚目の報告書をめくらずに、その席を立った。
「ツバサ。ハリスさんの所に行きなさい。」
「なんでだよ。やだよ。あのおっさん怖えし。」
「ハリスさんには既に伝えておいたわ。早く行かないと、状況は悪くなるだけよ。」
既に手を回されていたことを知って、俺は最大限の煽りを行うが、そいつは笑ってそれを受け流した。
「お前絶対結婚できねえよ。」
「あら?私はもう結婚する相手は決まってるわよ。」
「せいぜいお幸せにな。」
ドアを開けて、ツバサは全力で走り去っていく。そうして、私は4枚目の報告書だけをとって、残りは封筒に入れて、アリスに渡す。
「捨てておいて。」
「わかりました。って、やっぱりツバサ君のが欲しかったんですか。」
「まあ、これから私の部下になるわけだし、上司として部下の把握は必然だから。」
「でも、クリアファイルまでして、そんな丁寧にしまいますか?」
「そ、それは、そ、その。」
「麗華様って、たまに可愛いですよね。ツバサ君にもそれを見せたらイチコロなのに。」
「そ、そんなことできるわけないでしょ!」
言い争う主従は姿形は違えど、その姿はまるで仲の良い姉妹のように見えた。
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