攻撃

 世界は2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて動いている。


 カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量と、森林などからの吸収量とを同じにしましょう、という取り組みである。


 世界を見るなら、どう考えても温室効果ガスは排出量が上回っている。これを何とか人間なりの知恵を絞って、同じにするという方向へ、世界は向かっている。


 その方策の一つが電気自動車の普及であり、風力発電やその他温室効果ガスを発生しない、再生エネルギーの利用ということだ。


 電気自動車はまたお話するとして、今回は再生エネルギーに起因する疑問である。


 私達の住む地域には、蔵王連峰をはじめとする、世界に誇ることのできる有名な山々が多数存在する。


 その山々に今、再生エネルギーを発電するための風力発電装置の設置が、あっちこっちで検討されている。


 計画しているのは全て、東京をはじめとする都市部の会社だ。


 のこのこと人の土地にやってきて、「電気を作る風力発電機を作ります」「その電気は東京に送ります。人々が便利な生活を維持するためのものです」と言い、計画書を見せながら一応説明をしている。


 これが簡単に受け入れられるとでも思っているのだろうか。


 日本の民族の特性として、地方へ行けば行くほど、自分の生まれ育った土地に対する思い入れは強くなる。


 風力発電のプロベラは、想像以上に大きい。風切り音も発生するし、綺麗な山々の景観を損ねるし、渡り鳥をはじめとする、自然環境への影響もある。建設するにあたっては山をある程度切り開いて道を作る必要があるだろうし、こうして人が入ることで、二酸化炭素の吸収をしてくれる木を、発電前にかなりの量、伐採しなければならない。本末転倒なのが彼らにはわかっていない。


 地域は猛烈に、これ以上ないレベルで反対している。県の知事はそこそこのレベルで反対している。押し切れるかどうかは微妙な状況だ。カーボンニュートラルの実現という世界的な命題の元、この提案が正当化されてしまったら大変なことになる。

 

 あなたの住んでいる地域にまずはこれを建てて下さい、私達のところに来るのは、それからでも遅くはないでしょう、と言いたい。


 東京にだって、檜原村や高尾山など、山は沢山ある。高尾山のびわ滝コースの横に生えている木をじゃんじゃんと切り倒して建設のための道を作り、プロベラをポールトレーラーで運んで、サル山の頂上にオッ立てて、ブンブン発電してもらえばいい。そうすれば送電だって最低限のコストで済む。自分の地域を自分で守るというのは、当然のことである。


 ロシアのウクライナ侵攻を見て、日本人はロシアを非難する。私達の地域には既に、関西の電気を発電する、火力発電所が建設され、実際に稼働しており、私たちは否応なしに毎日毎日、来る日も来る日も有毒ガスを吸わされている。他の地域では認可されないのだとか聞いたが、どうしてここならいいのかがわからない。被災地だからというのならそれは間違えている。津波の被害があり、人が住んでいない所だからというのも全くもって正当な理由にはならない。宮城県の偉い人たちは穏やかすぎるので誰も何も言わないが、私たちは有毒ガスを毎日吹き付けられているのだから、ロシアがやっていることと同じで、これだって立派な地域の侵攻だ。


 今再び、別の部隊が私達の土地にやってきて、攻撃をしかけてきた。


 先日イギリスの環境活動家がゴッホの絵にトマト缶の中身を投げつけてニュースになっていたが、気持ちはこの人たちの頭の中と同じだ。


 一応理性があるから抑えてはいるけれど、もっと強く反対しないと、本当にこの綺麗な山々や私達を育んでくれている大自然が、インチキ発電設備によって奪われてしまう。


 カーボンニュートラルはいろいろな意味で、難しいような気がしている。


 このように電気の製造法を考えるよりも、電気をより使わない生活を考えた方がいいのではないだろうかと思う。


 どこにも届かない独り言だけれど、私はそう思う。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る