新人さんから
会社に新人さんが入ってきた。
出入りの多いこの運送業界、新しい人が入ってくる、あれ、知らぬ間にあの人はいなくなっている、が日常茶飯事だ。
今回の新人さんは、いつも私の車の近くに愛車を停めている。まだ入ったばかりなので、出勤時間や退社時間が私と重なる。
私も最近は歳を取って人見知りになってきたのか、はじめてお会いした時には声をかけなかった。二日目も三日目も。しばらくは簡単な挨拶だけが続いた。
ただ、今回の新人さんはいつもの新人さんと少し違う。某メーカーの四輪駆動車に乗っており、足回りがばっちりとチューンされている。そして、車の後ろにはトレーラーを牽引するためのヒッチメンバーと電源供給の装置が取り付けられている。
そして彼は、私の車が気になっているようだった。私もまた、気になっていた。
今日会社に出勤すると、いつも駐車するスペースには一つしか空きがなかった。その隣には彼の車があった。
「ランクル、かっこいいですね。今高いですよね」
お互い隣りになったのははじめてだ。私が雨の日の駐車の儀式などをしていると、ついに彼が話しかけてきてくれた。
私は今はこんなんだけれど、こう見えても元ディーラーの営業をしていたし、今はなき東京トヨタの四輪駆動車の専門店舗のスタッフなどもしていた。そして彼は同じようなトレーラーを引っ張っているようだったし、足回りもきまっていたし、お話することはいくらでもあった。
朝の時間だったのでとりあえずお話した所、トレーラーは普通の平台車を引っかけているとのこと。私もついつい口を滑らせて、かつてはキャンピングカーを引っ張っていたと申し上げたところ、レベルが違いますね、と驚いた顔をされていた。
今ではカミサンのリクエストがなければ車に乗って出かけることはなくなったけれど、かつては今をときめくアウトドアが好きで、自衛隊の演習場そば、富士山の麓やら、バイクがようやく通れる林道やらを見つけては、あっちこっちに出かけていた。
趣味が嵩じてキャンピングカーを買い、屋久島に行ってしまったのだから、実はレベルが違うと言われたのは、ある意味正解なのかもしれない。
今はこの車を所有していること、自分であれやこれやをいじくり、何とか維持することが愉しみになっている。昨日も下廻りのカバーを止めている「純正」のボルトを5本注文した。
こんなもの、ホームセンターに行けば汎用の安価な物がいくらでも売っているとは思うのだが、こうしてパソコンで品番を調べて注文し、家に届いた「純正部品」を、時間がある時に取り付けたりする事が、今となっては楽しい。
こちらの新人さんのナンバープレートは、北側隣県のものだったので、寮にいらっしゃるのだろうか。
私が猫を被っているせいもあるけれど、趣味の事を一緒に話す事のできる同僚は、今この会社内にはいないので、この人とはそんなことができたらいいなと思った。
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