グリスアップ

 トラックなどの大型機械や、私達が利用している乗用車などは、定期的なメンテナンスが必要である。


 日本においては、車検という仕組みがあり、大抵の事はここで行われる場合が多いが、それ以外にも、調子が悪くなったときとか、それを予防するために、メンテナンスが必要になる時がある。


 私の乗っているトラックも、最近少し調子が悪いなという箇所があり、給油、動きを良くするためのグリスアップをしたいなと思っていた。会社にはオイル交換などができるように、下回りをメンテナンスするためのピットがあり、私達運転手は自由に使うことができるようになっている。


 しかし、お盆という時節柄もあったのか、この場所にはいつもトラックが停まっている事が多く、なかなかその機会を得ることができなかった。正直言えば面倒臭い作業でもあるので、自分の気が乗ってなおかつ、ピットが空いているという条件が重ならなければできない。


 今日は週末なので、空いていたら出発前にやろうと思い出勤したのだが、ピットの前にドカンとトラックを停めて、荷台を片付けたり、昨日雨で濡れてしまったシートを畳んだり、それをフォークリフトで高い所に納めたり、などの作業をしている人がいた。


 こりゃだめだなと諦めていたのだが、うまいことその方も出発してくれて場所が空いたので、今がチャンスとピットに入り、グリスアップをはじめた。


 グリスを扱うし、トラックの下回りは汚れていたり、油が飛んでいたりもするので、本来なら作業用のツナギを着てやりたいところではあるのだが、いかんせん、暑いし着替えるのも面倒だし、注意深く作業をすればいいかな、ということで、MonotaROで買って数回しか着ていない作業着のまま、慎重に作業をした。


 例えば、三菱のトラックなどには、オートグリスといって、運転席からグリスを差す事のできる機能が備わっている。しかし、今私に預けられているトラックには、この機能はない。


 足廻り、位置合わせが面倒なプロペラシャフト、気になっていたクラッチなどに給油をした。今回、グリスを打つための新しい道具を自費で購入し、これを試してみたのだが、やっぱり道具は良くできていて、かなり楽に作業をする事ができた。


 新しい作業着にべっとりとグリスがついてしまわないかと心配だったが、大丈夫だった。家から持ってきたゴム製の手袋と、古いタオルをおろして使ったウエスが役に立った。


 ピットからトラックを出し、いつもより30分遅れて出発すると、心なしか調子が良くなっているような気がして気分が良かった。


 しかし、電気自動車などが普及してしまうと、整備の業界も大変な改革を迫られるのではないかと危惧している。電気自動車になってしまうと、今の車についている、エンジンもラジエターも、クラッチも変速機もなくなってしまうのだ。構造自体が簡単になるのだから、ありとあらゆる業種の会社が、自動車を作ることができるようになるだろう。


 そうなれば、ますます昔の車の価値が上がるのではないだろうか、と、勝手に想像して、今の車を大事に乗りましょう、という思いを、グリスアップと共に新たにしたのであった。



 

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