屋久島

 屋久島は偉大だ。


 人の心に入り込み、その人の人生をさえ変えてしまう力を持っている。


 かく言う私がそうだった。


「どうして屋久島に来たんですか?東京ってどんなところですか?」


 屋久島の人に出会って話をしていると、こんな事をよく聞かれた。私は「自然が好きで、海が特に好きで、水も美味しくて、素晴らしい所だから」というような感じで答えていた。結構この返事には困った。同時に「東京は人ばかりで大変な所だ、朝駅の中を歩いていると人と何度もぶつかる」とか答えていた。相手は不思議な顔をして私を見ていた。


 屋久島の大自然に憧れて、サラリーマンを辞めて移住してしまった。影で母親の姉の親戚の叔母さんは「まだちょっと早いんじゃないのかね」とか言っていたそうだ。今になってみるとこの言葉の意味がよくわかる。


 これぞ我が人生と張り切って移住したものの、体調を崩して帰ってきた。佐川急便で働いてお金を貯めて、本当はパイロットになりたかったのだけど、なれないようなので諦めかけた時に屋久島がもう一度頭の中に出てきて、当時はまだ高価だったパソコンやデジカメなど一式を買い揃えて再び屋久島に行った。


 二回目ということでそれなりに楽しかったのだけれど、やはり移住して生活をはじめてしまうと、あの屋久島であっても周りの景色への感動はだんだんと薄れてくる。


 一番はじめに屋久島に行ったときの感動を、長く感じることができればよかったのだが、日々の生活に追われてしまい、なかなかそれが難しくなっていた。


 インターネットでの活動も、屋久島に住んでいるという肩書きがあったからこそ成功したように思う。屋久島とはかけ離れてしまった今、こうして文章を書いてみても、なかなか当時のように盛り上がることはない。まあ、それを望んで書いている訳ではないのでいいのだけれど。


 今は昔と違って、自分を発信する方法がいろいろとある。何も肩書きのない人だって、一生懸命にやればそれなりに成功を収められる環境は整っている。


 ただ有名になりたい、お金に困らない生活をしたいという思いなのであれば、このような事をすればいいのだと思うけれど、私の場合はあまりそうは思わない。


 でも、自分の歴史を紐解いてみるなら、屋久島はとても重要な位置にある。いつか余裕ができたならもう一度訪れて、感謝の意を表したいなとは思っている。


 ということで、今いるここで毎日をしっかりと生きて行かねばな、というのが今日の結論なのであった。



 

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