幸せ

 募集! 5月から就任、年収1,500万円!


 インスタグラムを見ていると、こんな広告が出てきた。


 何をやるんだかは見ていないけれど、私の今の状況からするなら、夢のような話である。


 かつては年収1,000万円と聞くとすごいなと思った事もあったけれど、歳を取ってしまったからなのか、それほど心に響く事はなくなった。


 きちんと成果を出している人にきちんと教わって、ビットコインのFXなどをすれば、それなりにお金が稼げるような気はしているのだが、これもまた、今ひとつ食いつく気になることができない。


 今回もまた地震があったけれど、段ボール箱の海と化してしまった自分の部屋を片付けながら、いろいろなことを考えていた。


 カミサンは新しいスマホがゆうパックで指定時間の20分前に届き、苦闘の末、店に行くことなくデータの入れ替えやアプリの移行などもできたようで、幸せそうである。


 私は私で、ふとしたことから自動巻の腕時計が欲しくなり、メルカリで一つ買ってみたら最後、あれも欲しい、これも欲しいと、ここ数日で一万円ほど散財してしまった。


 昨日届いたORIENTのビンテージ自動巻の時計を見ていると、やはり昔を思い出すようで不思議な、何とも言えない幸せな気持ちになるのである。休日の朝、すり減った竜頭を引っ張ったり回したりしながら、機械式時計の曜日、日付、時刻を調整するのは、至福の時間だ。


 私は小学校5年生の時、東京の世田ヶ谷から日野に引っ越した。釣りが好きで、高幡不動の駅から日野駅行きのバスに乗って、よく釣りに行った。


 そのバス停の中に、「オリエント時計前」というバス停があり、この響きが小学生だった私の潜在意識の中に刻み込まれている。記憶が定かではないが、母親も少しだけパートで働いていたような気もする。原付に乗るようになり、この工場の近くの出光のスタンドに「アルバイトをさせて下さい」と言ったところ「今は間に合っているからダメだ」と言われたのも鮮明に覚えている。


 今回の地震で、私が出入りしていた飲料工場は積み上げられていた製品やケースが倒壊し、しばらくの間は出荷が不可能になった。タイヤの倉庫も同様だ。昨年も同じような事があったが、ここに住んでいる以上、こればかりは仕方ない。


 時間が出来たので、昨日の昼は芝生を種から育ててみようと、庭の一角に土を入れ、芝生の種を蒔いた。今後インターネットのお店に力を入れることになった時の為に溜め込んである部屋の中の段ボールも、必ずやってくる余震では崩れることのないように、元佐川急便の路線便の運転手の経験を活かして、天井までぎっちりと組み上げた。震度5位までなら大丈夫だろう。


 今、会社から電話がかかってきて、休み明けの火曜日からは仕事があるという。働き過ぎないように運転の仕事をしながら、インターネットの仕事も少しずつ復活させていき、運転が出来なくなってしまう頃までには何とか最低限の生活ができるレベルにまでなったらいいなと思っている。


 妻は病気を克服して何とかパートに復活し、扶養の範囲ではあるが毎日元気に働いてくれている。私は平日に最低限の拘束時間で運転の仕事をしながら、週末と夜の時間で自営の仕事や趣味のことを考えたりして、ストレス発散を図り、肉体と精神の状態を維持している。


 このバランスが、今の私達夫婦に幸せをもたらしている。お金だけあってもダメで、人生は肉体と精神のバランスが大事なのだろうと身をもって感じている。



 

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