いい時代

 あれもこれも、いい時代になった。


 ここ数日、先日購入したギターを思い出したように練習している。老後の充実と、毎日の活力確保のため、仕事後の老体に鞭打って、時間を見つけては練習している。


 本、テレビ、ネットなどを見ていると眠くなってしまうが、楽器は指を動かすからなのか眠くならない。睡眠不足が心配だが、いい感じである。


 はじめてみて驚いたのが、今の方々の、ギターをマスターするための環境だ。


 私達の頃は、カセットテープに録音された音楽を何度も聴き、その音がギターのどこにあるのかを探して練習するという作業だった。慣れるまではかなり大変だ。


 今はどうだろう。


 アーティストや曲名などをパソコンやスマホの検索窓に入れれば、いろいろな情報が取り出せるようになった。そして、ギターのコピーはとんでもない事が起こっていた。


 どこのフレットをどの指でどのように押さえて、どのようにピックを動かして弾く、という情報が、タブ譜(楽譜と同じようなもの、厳密にはちょっと違う)と実際に弾いている動画で紹介されている。


 これなら誰にでも始めることができるだろう。


 アーティストが実際に楽器を弾いている指を見ることなんか殆どできなかった私達の時代から比べると、隔世の感がある。


 私達はコンビニに行けば24時間食べ物を買うことができるし、100円ショップに行けば格安で日用品を買うことができる。何でもわからないことは検索すればわかるし、わからなければ、質問を投げかけて答えを求めることができるという仕組みもある。行きたいところの映像を、地名を入力するだけで簡単に見ることもできる。

 私達はいい時代に生きている。


 でも、生活や人生に対する満足度はどうなのだろう。これだけ時代が進歩しても犯罪は減らないし、自殺者も減らないし、心の病はかえって増えているかもしれない。


 車が空を飛び、自動運転化が進み、家の中の事柄が喋るだけでできるようになるなど、この先更に生活が便利になれば、世界の人々は幸せになれるのだろうか。


 ギターだって、マスターするための情報は溢れかえっているけれど、だからと言ってそれを見ている人が皆上手くなれるのかと言えば、それも違うだろう。

 

 便利になることは歓迎だが、便利が人を幸せにできるとは限らないし、むしろ便利になりすぎてしまうと、人間はそれに甘えてしまって、ダメになっていくような気がしてならない。


 考えすぎかもしれないけれど、昔と比べ、便利になりすぎている状況を見ると、ついつい、こんな事を考えてしまうのである。



  

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