物忘れ

 毎日の弁当は決まっている。


 二つのおにぎりと、おかずのブロッコリーを、毎晩カミサンが用意してくれる。私は朝が早いので、これらを弁当の袋に詰め、お茶とコーヒーの水筒を作って持って行く。毎日の弁当はこのように、夫婦の共同作業で出来上がる。


 今日、いつものようにおにぎりを二つ袋に詰めたところで気が付いた。おかずのブロッコリーが冷蔵庫に入っていない。用意周到のカミサンにしては珍しい。昨日、新しいブロッコリーを買ってきた、今は旬で安くて美味しそうだ、とか言っていたのを覚えていたが、茹でるのを忘れたのかな、と思い、あっちこっちを探してみたけれど、どこにもブロッコリーは見当たらない。何らかの方法で知らせるかな、いや、帰ってから言えばいいかな、言わなくてもいいよな、こんな細かいこと、などと思っていた。


 手に持っている弁当の袋に目をやると、何とそこにはブロッコリーのおかずが入っていた。冷蔵庫を開けて、自分で弁当用の袋に入れたのを覚えていないのだ。この間の記憶がすっかり飛んでいる。物忘れだか加齢による健忘症だかわからないが、もう自分が嫌になった。


 そう言えばカミサンも、薬を飲んだか飲まないか忘れることがよくある。高価な方の血液をサラサラにする薬は細心の注意を払っているようで、自分で表を作って、薬を飲んだら済みのマークを付けている。


 よく忘れるのは、食後に飲んでいる胃腸薬だ。これはチェックが甘くなっているので、自分でわからなくなってしまうことがあるようだ。


 すでに歳を重ね、お互い様々な病気を発症している。カミサンは脳の病気をしており、それが発症した際に変貌してしまった様子を、今でも覚えている。何とか大事には至らなかったものの、この先何が起こってしまうかは、誰にもわからない。


 私は以前から物覚えが悪く、人の名前や日付や曜日など、思い出せないことがよくある。加速している感じはしないものの、ベースがこれなので不安である。


 万が一、物忘れの病気にでもなってしまったら、それこそカミサンに迷惑をかけてしまう。


 幸いかな、今日の事柄は、ブロッコリーを入れたことを忘れはしたものの、その事実を覚えていて、こうして書くことが出来ている。本当に病気になってしまうと、忘れたことも忘れてしまうらしいから、まだ大丈夫だろう。


 いずれにせよ、あれやこれやの病気には最大限の注意を払って生きていかねばならない事を、身に染みて実感した、今日の物忘れであった。


 気を付けなければな。



 

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